EDUONE Pass

2026-09-04

T細胞リンパ腫の薬剤感受性を決める新たな仕組みを発見~コレステロール取り込みと細胞死をつなぐMYLIP-LDLR経路~

寄稿者:北海道大学

《ニュース概要》
ポイント
・難治性の悪性リンパ腫「末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)」の薬剤感受性メカニズムを解明。
・特定遺伝子の欠失によりコレステロール受容体が増加し、細胞死誘導薬への感受性が高まることを解明。
・治療が効きやすい患者の選別や新規治療戦略への展開に期待。

■概要
北海道大学大学院医学院博士課程4年の横山慶人氏と北海道大学病院血液内科の中川雅夫講師らの研究グループは、末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)において、がん細胞を細胞死へ導く薬剤であるナビトクラクス*1の感受性を調節する、新たな分子経路を明らかにしました。
PTCLは成熟T細胞由来の悪性リンパ腫であり、一部の病型を除き既存治療に対する反応性は限定的であることから、予後改善に向けた新規治療法の開発が求められています。

研究グループは、ゲノム編集技術であるCRISPR-Cas9*2を用いてPTCL細胞株内の約20,000種類の遺伝子を網羅的にノックアウトさせ、ナビトクラクス感受性に関わる遺伝子を探索しました。その結果、低密度リポ蛋白受容体(low density lipoprotein receptor;LDLR)の分解を促進する酵素であるMyosin regulatory light chain interacting protein(MYLIP)を新たな感受性因子として同定しました。MYLIPを欠失させると、細胞表面のLDLRが増加し、コレステロールの取り込みとナビトクラクスへの感受性が増強しました。LDLRの分解を促すPCSK9*3を加えると、この薬剤感受性の増強が抑えられたことから、LDLRの増加が重要な役割を担うことが示されました。マウスモデルでも、MYLIPを欠失させた腫瘍ではナビトクラクスによる抗腫瘍効果が強まりました。これらの結果から、コレステロール代謝を制御する「MYLIP‒LDLR経路」が、PTCLにおけるナビトクラクス感受性を調節することが示されました。

本研究成果は、MYLIPの発現量やLDLRを介したコレステロール取り込みを指標として、ナビトクラクスが効きやすい患者を選別する方法や、新たな治療戦略の開発につながる可能性があります。
なお、本研究成果は、2026年8月25日(火)公開のOncogene誌にオンライン掲載されました。

画像解説:
本研究結果の概要図

【背景】
末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)は、成熟T細胞を起源とする悪性リンパ腫の総称で、悪性リンパ腫全体の約7%を占める希少疾患です。一部の病型を除き、既存治療に対する反応性は十分とはいえず、治療成績の向上につながる新たな治療法の開発が求められています。
リンパ腫を含むがん細胞は、本来備わっている細胞死の仕組みであるアポトーシスを回避することで生存しています。この過程にはBCL-2ファミリー*4と呼ばれるタンパク質群が関与しており、これらの働きを阻害してがん細胞を細胞死へ導く薬剤がBH3ミメティクス*5です。BH3ミメティクスは一部の血液がんで高い治療効果を示していますが、PTCLにおける有効性や、薬剤の効きやすさを決める仕組みについては十分に明らかになっていません。さらに、一部の薬剤では血小板減少などの副作用が問題となるため、治療効果を高めながら副作用を抑える方法や、効果が期待できる患者をあらかじめ見分ける指標の確立が重要です。

【研究手法】
研究グループは、PTCLにおけるBH3ミメティクスへの感受性を規定する遺伝子を同定するために、ゲノム編集技術であるCRISPR-Cas9を2種類のPTCL細胞株に用いることで、一度に約20,000種類の遺伝子を網羅的にノックアウトさせ、薬剤感受性スクリーニングを施行しました(図1)。
具体的な方法として、19,114種類の遺伝子に対する単鎖ガイドRNA(sgRNA)をPTCL細胞株に導入し、遺伝子ノックアウトを行った後、3種類のBH3ミメティクス(ナビトクラクス、ベネトクラクス、ABBV467)投与群とコントロール群に分けて培養を行いました。次に、生存したPTCL細胞株のゲノムDNAを抽出し、ゲノムDNA上のsgRNA配列をPCRで増幅、次世代シークエンサーで検出しました。そして、計測されたsgRNA数から、どの遺伝子がBH3ミメティクスへの感受性亢進並びに抵抗性に重要な役割を担っているのかを検討しました。

【研究成果】
全ゲノムスクリーニングにより、既知の細胞死関連遺伝子に加え、これまでBH3ミメティクス感受性との関連が知られていなかったMyosin regulatory light chain interacting protein(MYLIP)とRetinoid X receptor beta (RXRB)を新たに同定しました。
MYLIPを欠失させたPTCL細胞では、細胞外からのコレステロール取り込みを担う低密度リポ蛋白受容体(low density lipoprotein receptor; LDLR)の分解が抑えられ、LDLRの増加、コレステロールの取り込み促進、細胞内コレステロール量の増加が認められました。これに伴い、ナビトクラクス、ベネトクラクス及びBCL-XL選択的分解薬DT2216による細胞死が増強しました。また、LDLRの分解を促すproprotein convertase subtilisin/kexin type 9(PCSK9)を加えると、この薬剤感受性の上昇が抑えられたことから、LDLRを介したコレステロール取り込みが薬剤感受性に重要な役割を果たすことが示されました。

さらに、核内受容体RXRBがMYLIPの発現を調節し、同じRXRファミリーの仲間であるRXRAがその働きを一部補うことを明らかにしました。RXRを欠失させると、MYLIPの発現低下とLDLRの増加が起こり、ナビトクラクスへの感受性も高まりました。以上から、コレステロール代謝とアポトーシスを結び付ける新たなRXR‒MYLIP‒LDLR経路が明らかになりました。
マウスモデルでも、MYLIPを欠失させた腫瘍ではナビトクラクスによる抗腫瘍効果が強まりました。また、患者検体の公開データ解析から、一部のPTCL病型や遺伝的背景を持つ患者群では MYLIPの発現が低いことが示されました。

【今後への期待】
本研究により、PTCLでは、がん細胞のコレステロール取り込みを調節するRXR‒MYLIP‒LDLR経路が、ナビトクラクスに対する感受性に関与することが明らかになりました。今後、腫瘍組織におけるMYLIPやLDLRの発現量を詳しく解析することで、ナビトクラクスなどの薬剤が効きやすい患者を見分ける指標の開発につながる可能性があります。
また、本研究で示された新規のメカニズムは、脂質代謝を標的とした新しいがん治療戦略を検討するための基盤になると期待されます。

【謝辞】
本研究は、JSPS科学研究費(課題番号JP24K02315、JP23K15314、JP24K19190)、AbbVie Pharmaceuticalsからの研究費、高松宮妃癌研究基金及び武田科学振興財団の支援を受けて実施されました。

■論文情報
論文名:
Genome-wide CRISPR screens identify an RXR‒MYLIP‒LDLR axis regulating BH3 mimetic sensitivity in peripheral T-cell lymphomas
(全ゲノムCRISPR スクリーニングにより、末梢性T細胞リンパ腫におけるBH3ミメティクス感受性を制御するRXR‒MYLIP‒LDLR経路を同定)

著者名:
横山慶人 1、千葉雅尋 2、武井則雄 3、須藤啓斗 2、石尾 崇 2、後藤秀樹 2、遠藤知之 2,4、Marshall E. Kadin 5、前田道之 6、渡部 昌 7、畠山鎮次 7、豊嶋崇徳 2、Yibin Yang 8、中川雅夫 2,9

1.北海道大学大学院医学院
2.北海道大学大学院医学研究院血液内科学教室
3.北海道大学大学院医学研究院附属動物実験施設
4.北海道大学病院感染制御部
5.バージニア大学医学部病理学教室
6.京都大学医生物学研究所
7.北海道大学大学院医学研究院生化学教室
8.フォックスチェイス癌センター
9.北海道大学病院血液内科

雑誌名:
Oncogene(基礎腫瘍学の専門誌)
DOI:
10.1038/s41388-026-03970-y
公表日:
2026年8月25日(火)(オンライン公開)