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2025-04-02

“光る”遺伝子改変マウスで探る腱・靱帯が筋骨格をつなぐしくみの解明 〜体を動かす組織の成り立ちを立体的に“見える化”し、疾患研究の新たな糸口に〜

寄稿者:広島大学

《ニュース概要》
【本研究成果のポイント】
 軟骨は緑、腱・靱帯は赤く光る蛍光レポーターマウス(※1)を用いて、体が作られていく過程で、これらの組織がどのようにつながっていくのかを高解像度の三次元的(3D)蛍光イメージングで明らかにしました。
 これまで解析が困難であった腱・靱帯の成熟過程を、赤い蛍光を発する腱・靱帯において第二次高調波発生(SHG)(※2)信号を用いてコラーゲン線維を可視化することで、3D で詳細に解析することに成功しました。
 Scleraxis(Scx)欠失マウス(※3)で蛍光レポーターの発現と SHG シグナルを調べると、腱の成熟が上手く進まないだけでなく、腱を介した骨とのつながりにも変化が生じる筋肉が存在することを見出しました。
 体を動かす組織が連携する成り立ちの理解が進むことで、スポーツ障害や加齢による腱・帯の損傷に対する再生医療への応用が期待されます。
 
【概要】
広島大学大学院医系科学研究科・生体分子機能学の余 昕怡(大学院生)、宿南知佐教授の研究グループは愛媛大学の川上良介准教授、今村健志教授、京都大学医生物学研究所の安達泰治教授、渡邊仁美助教、近藤玄教授、岐阜大学の秋山治彦教授らの研究グループとの共同研究で、ScxTomato;Sox9EGFP レポーターマウスを用いた蛍光イメージングにより、軟骨と腱・靱帯の組織間相互作用を明らかにする研究を行いました。本研究では、蛍光レポーターマウスを用いて、組織の薄い切片による解析および共焦点顕微鏡や二光子励起顕微鏡による 3D 解析を行った結果、胚発生過程において腱や靭帯と軟骨がどのように関わり合っているかを視覚的に捉えることができました。また、SHG 信号と重ね合わせて、赤色蛍光を発する腱や靭帯を詳しく観察したところ、成熟した腱と未成熟な腱を明確に区別できることが分かりました。蛍光レポーターマウスと腱・靱帯の成熟に必要な転写因子 Scx の欠失マウスを組み合わせることで、Scx が腱・靱帯の成熟だけでなく筋肉の形づくりや腱を介した軟骨・骨への付着を制御していることも明らかになりました。
本研究成果は、2025年3月26日付けで、「Development」に掲載されました。

■発表論文
論文タイトル
Dynamic interactions between cartilaginous and tendinous/ligamentous primordia during musculoskeletal integration
著者
余 昕怡1、川上 良介2、山家 新勢1、吉本 由紀1、佐々木 隆子3、樋口 真之輔1、渡邊 仁美4、秋山 治彦5,6、三浦 重徳1、胡 卡迪1、近藤 玄4、相崎 来夢7、乾 雅史7、安達 泰治8、Denitsa Docheva9、今村 健志2、宿南 知佐1
1. 広島大学・大学院医系科学研究科・生体分子機能学
2. 愛媛大学・大学院医学系研究科・分子病態医学講座
3. 大分大学・医学部・生化学第二講座
4. 京都大学・医生物学研究所・再生組織構築研究部門・統合生体プロセス分野
5. 岐阜大学・大学院医学系研究科・整形外科学教室
6. 岐阜大学・One Medicine創薬シーズ開発・育成研究教育拠点(COMIT)
7. 明治大学・農学部生命科学科・動物再生システム学研究室
8. 京都大学・医生物学研究所・生命システム研究部門・バイオメカニクス分野
9. Dept. of Musculoskeletal Tissue Regeneration, König-Ludwig-Haus &University of Würzburg

掲載雑誌
Development
DOI番号
10.1242/dev.204512

【背景】
私達の体を動かすために必要な筋肉、骨、軟骨、腱・靱帯は、最初は別々に形成されますが、胚発生の過程でつながり、統合されて一体化した運動器として機能できるように形成されます。特に、腱が筋肉と軟骨を適切な位置でつなぐことは、体のスムーズな動きを可能にするために不可欠です。
これまで、このような組織のつながりを調べるためには、組織を薄く切った標本を使う方法が一般的でした。しかし、切片を作ることで元の構造が歪んでしまったり、立体的な情報を正確に再現するのが難しかったりという課題がありました。

近年、こうした課題を克服する技術として、組織透明化と高解像度の 3D 蛍光イメージングが注目されています。組織透明化の技術を用いることで、細胞や組織の構造を保持したまま、深部の情報を観察することが出来ます。さらに、特定の細胞が光る蛍光レポーターマウスを組み合わせることで、組織のつながりや成長の様子を詳しく調べることができます。
筋骨格システムの機能的な連結においては、腱・靱帯の成熟に重要な Scx と、軟骨の成長を司る Sox9(※4)という転写因子が注目されています。これらの転写因子が同時に働く Scx+/Sox9+細胞が、腱と軟骨をつなぐ役割を担っています。
しかし、Scx と Sox9 の発現の ON-OFF の切り換えやこれらの細胞が 3D の空間内でどのように分布し動いているかについては、未解明な部分が多く残されていました。そのため、これらの課題を克服し、筋骨格システムがどのように確立されるのかを明らかにするための新たなモデルを用いたアプローチが求められていました。

【研究成果の内容】
今回、研究グループは Scx 遺伝子が発現する領域で赤色蛍光蛋白質を発現するScxTomato トランスジェニックマウスの系統を新たに確立し、この蛍光レポーターマウスと Sox9 が発現する軟骨で緑色蛍光蛋白質を発現する Sox9EGFP ノックインマウスを交配し、ScxTomato;Sox9EGFP マウスを得ました((図1)。
ScxTomato;Sox9EGFP マウスと野生型マウスと交配させて得られた胚を用いて、腱・靭帯と軟骨の組織間相互作用を三次元的に解析するため、60%TDE およびCUBIC-L/R を用いた組織透明化(※5)を実施しました(図 2)。透明化処理後、実体顕微鏡で観察すると、赤色の腱・靱帯原基と緑色の軟骨原基を同時に可視化されました(図 3)。共焦点レーザー顕微鏡(※6)および二光子励起顕微鏡(※7)を用いた蛍光 3D イメージングにより、将来の関節腔を含む腱の軟骨付着部に Scx と Sox9を共発現する細胞が局在していることが分かりました。
また、tdTomato を発現する Scx+領域における SHG 信号を観察することで、成熟した腱と未熟な腱を明確に区別するできることが分かりました。野生型マウスの手掌では強い SHG 信号が観察される tdTomato+の腱は、Scx 欠失マウスでは、SHG 信号が観察されず、赤色蛍光の発現も減弱し、コラーゲン線維の形成による腱の成熟が観察されませんでした(図 4)。さらに、Scx 欠失マウスでは、三角筋粗面の消失による形態的変化を伴う筋肉の異常が観察されました(図 5)。
以上の結果から、ScxTomato;Sox9EGFP マウスは筋骨格の形成や組織間のつながりを理解するための有用なモデルとなると考えられます。

【今後の展開】
本研究成果は、腱や靭帯の形成メカニズムの解明に加え、腱・靱帯付着部疾患の病態理解や再生医療への応用が期待されます。今後は、蛍光レポーターマウスと様々な遺伝子改変マウスを組み合わせることで、胚発生の過程において筋骨格システムがどのように形作られるのかを解明していきます。また、組織透明化技術と 3D 蛍光イメージングを活用し、生後の腱・靱帯付着の形成過程を詳細に観察しその発達メカニズムを明らかにしていきます。これらの研究が進むことで、スポーツ障害や加齢による腱・靱帯の損傷に対する新たな診断技術や治療法につながることが期待されます。

■用語説明
(※1)蛍光レポーターマウス
蛍光レポーターマウスは、蛍光蛋白質の遺伝子を持ち、特定の遺伝子の発現や細胞の動きを蛍光の光を使って“見える化”するために作られた遺伝子改変マウスです。生体内で標的とする遺伝子が発現すると、蛍光蛋白質が産生され、光るようになります。これを蛍光顕微鏡(従来の光学顕微鏡にさらに機能を追加した顕微鏡で、特定の波長の光を照射して蛍蛋白質を励起し、その発する光を検出することができるもの)で観察することができます。

(※2)第二高調波発生(SHG:Second harmonic generation)
SHG は、強い光が特定の物質に入射した際、元の光の 2 倍の周波数(半分の波長)の光が生成される非線形光学現象です。強力なレーザー光を組織に照射し、コラーゲンなどの非線形光学特性を持つ構造から発生する光を検出することで、染色しなくても高解像度の画像を得ることが出来ます。

(※3)Scleraxis (Scx)欠失マウス
腱/靭帯の成熟に必要な転写因子である Scx のエクソン 1 の翻訳開始コドンより 24 塩基下流の 11 塩基をゲノム編集技術を用いて欠失させ、フレームシフトを起こすことで発現を欠失させたマウス。Scx 欠失マウスでは、腱や靭帯が低形成になる表現型を示します。

(※4)Sox9
Sox9 は、軟骨を作るために欠かせない転写因子です。この分子がうまく働かないと、軟骨の形成に問題が生じ、関節や骨の発達に影響を与えます。

(※5)組織透明化
生体の組織は、光が散乱しやすく、内部の観察が困難です。本研究では、60%の2,2-チオジエタノール(2,2-thiodiethanol, TDE)および Clear, UnbstructedBrain/body Imaging Cocktails (CUBIC)-L/R を用いて組織を透明化し、蛍光顕微鏡で組織の 3 次元的な構造を詳しく観察しました。

(※6)共焦点レーザー顕微鏡
共焦点顕微鏡は、レーザー光を試料の特定の狭い範囲に焦点を合わせ、像を検出します。試料の表面で反射された光はピンホール上に集められますが、焦点以外からの反射光は、ピンホールで除かれるので、より詳細で鮮明な画像を得ることができます。また、試料の複数の層をスキャンし、それらの画像を組み合わせることで、試料の 3 次元画像を生成し、鮮明な内部構造の画像を得ることが出来ます。

(※7)二光子励起顕微鏡
二光子顕微鏡は、二光子吸収という非線形光学現象を利用した顕微鏡技術です。近赤外線領域の超短パルスレーザー光を試料に照射し、焦点付近で二つの光子が同時に試料に吸収されることで蛍光が発生します。生体組織の深い部分まで高解像度で観察することが可能で、焦点以外の領域では蛍光がほとんど発生しないため、周囲組織のダメージが少なく、長時間の観察にも適しています。

■詳細はこちら※参照元のサイトを開きます
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/89606

トップ画像:ScxTomato;Sox9EGFP レポーターマウスモデルの確立
下図:Scx 欠失マウスのおける腱の成熟不全