筑波大学
四足歩行する一般的な哺乳類では肩甲骨が体を支える主要な骨ですが、地中で生活するモグラ類では鎖骨がより大きな役割を担っている可能性を、骨の内部構造から明らかにしました。前足を大きく横に広げる独特な姿勢に適応し、肩周りの骨の中で力を伝える役割が変化していることが示唆されました。
陸上で四足歩行をする哺乳類では、肩甲骨が体を支える主要な骨であるのに対し、地中で生活するモグラ類では鎖骨がより大きな役割を担っている可能性を、骨の内部構造から明らかにしました。モグラ類では、前足を大きく横に広げた「バンザイ」のような姿勢に適応して、肩帯(けんたい)と呼ばれる肩周りの骨の中で、力を伝える経路が変化していることが初めて示されました。
四足歩行する動物では、体重を支えるときや穴掘りのときに地面から受ける力が、前足から肩帯を通って体へ伝わります。四足歩行する一般的な哺乳類では、前足を体の下に置く姿勢で歩くため、肩甲骨が地面からの力を体に伝える主要な役割を担うと考えられています。一方、地中で生活するモグラ類は穴を掘る生活に適応し、前足を体の横に大きく広げた姿勢をとります。この姿勢では、一般的な哺乳類とは肩帯への力の伝わり方が異なる可能性があります。
本研究では、モグラ類の鎖骨と肩甲骨の内部構造を調べ、前足を体の下に置く姿勢をとる近縁種のジャコウネズミと比較しました。その結果、モグラ類では鎖骨と肩甲骨の両方がジャコウネズミよりも発達していましたが、骨の内部構造は鎖骨でより頑丈な特徴を示し、肩甲骨ではその特徴が弱いことが分かりました。反対にジャコウネズミでは、肩甲骨で強く、鎖骨で弱い特徴がみられました。
これらの結果から、モグラ類では前足を大きく横に広げて使う独特な姿勢に伴って、肩甲骨を中心としていた力の伝わる経路が変化し、鎖骨がより重要な役割を担っていることが示唆されました。
【研究代表者】
筑波大学生命環境系
仲井 大智 特別研究員
【研究の背景】
陸上で生活する動物にとって、前足は体重を支えたり、歩いたり、土を掘ったりする際に、地面から大きな力を受けます。前足と体をつなぐ「肩帯(けんたい)注 1)」は、この力を受け止め、体へ伝える重要な役割を担っています。肩帯を構成する骨の種類や形は、動物によって大きく異なり、それぞれの動物の姿勢や運動の仕方と深く関係しています。
多くの哺乳類では、前足を体の下に置く姿勢をとり、背中側にある肩甲骨が前足から伝わる力を主に受け止めると考えられています。一方、モグラ類は、地中を掘る生活に適応して、前足を体の横に大きく広げた、いわば「バンザイ」のような姿勢をしています(図 1)。モグラ類はこの姿勢のまま、腹ばいで前進したり、平泳ぎのように前足を動かして土を掘ったりします。このような特殊な前足の姿勢では、一般的な哺乳類とは異なる経路で、力が体へ伝わっている可能性があります。
しかし、モグラ類では肩帯を構成する骨そのものが非常に特殊な形に変化しているため、骨の外形だけを見ても、それぞれの骨が実際にどのような力を受けているのかを判断することは困難でした。そこで本研究では、外からの観察ではなく、骨の内部の構造に注目しました。
【研究内容と成果】
本研究では、肩帯を構成する鎖骨と肩甲骨について、骨の内部構造を詳しく調べました。骨は硬い組織ですが、その内部にはコラーゲン線維が規則的に並ぶ構造をしています。このコラーゲン線維は、骨に繰り返し加わる力(圧縮など)の影響を受け、骨の強度を高める方向に配向することが知られています。そのため、骨の内部構造には、そこにどのような力が加わっていたのかが反映されていると考えることができます。
そこで、地中で生活するモグラ類 2 種(アズマモグラ、コウベモグラ)、地上と地中の両方で生活するモグラ科のヒミズ、モグラの近縁種で一般的な哺乳類と同じように前足を体の下に置いて歩くジャコウネズミを比較しました。それぞれの鎖骨と肩甲骨の内部構造を観察し、骨を構成するコラーゲン線維の配向注 2)と、骨の緻密な部分(皮質骨)の発達度注 3)を調べました。
その結果、モグラ類の鎖骨では、圧縮力に対応したコラーゲン線維の並びが強く見られた一方、肩甲骨ではその特徴が比較的弱いことが分かりました。反対に、ジャコウネズミでは肩甲骨でこの特徴が強く、鎖骨では弱く見られました(図 2a)。また、皮質骨の発達度を鎖骨と肩甲骨で比較したところ、モグラ類ではどちらも穴掘りの適応により頑丈になっており、その中でも鎖骨の方が肩甲骨よりさらに発達していました。一方、ジャコウネズミでは肩甲骨の方が発達していました(図 2b)。
コラーゲン線維の配向と合わせて考えると、モグラ類では鎖骨が、ジャコウネズミでは肩甲骨が、前足から伝わる力をより強く受け止めていたと考えられます。なお、ヒミズでは、モグラ類とジャコウネズミの中間的な特徴が観察され、他の 2 種のモグラ類ほどバンザイした姿勢に適応していないことと関連していることが示唆されました。
これらの結果は、一般的な哺乳類では肩甲骨を中心としていた、前足から体への力の伝わる経路が、モグラ類では前足を大きく横に広げて使うことに適応して変化し、鎖骨がより重要な役割を担うようになったことを示唆しています。つまり、モグラ類の肩帯では、単に骨が大きく頑丈になっただけではなく、前足の使い方が変化したことで、力を受け止めて体へ伝える役割を担う骨そのものが変化していたと考えられます。本研究は、動物の骨の形だけでは分からない「力の通り道」を、骨の内部構造から読み解いたものです。
【今後の展開】
動物の肩帯は、進化の中で大きく姿を変えてきました。約 3 億 7000 万年前に陸上に進出し始めた初期の四肢動物「アカントステガ」から、現在の哺乳類や鳥類まで、肩帯をつくる骨の種類や形はさまざまです(図 3)。これは、動物の姿勢や、歩く、掘る、飛ぶといった体の動かし方が変化してきたことと関係しています。
このように肩帯をつくる骨の種類や形が変化すると、それぞれの骨が担う役割も変わってきたと考えられます。本研究では、モグラ類において、一般的な哺乳類では主に肩甲骨が担っている前足からの力を受け止める役割を、鎖骨がより大きく担っていることが示されました。今後は、さまざまな脊椎動物の肩帯について、骨の形だけでなく内部構造も調べて比較することで、肩帯をつくる骨が進化の中で変化するとき、前足からの力を受け止め、体を支える役割がどの骨からどの骨へと変わってきたのかを明らかになることが期待されます。こうした研究を通じて、動物の体のつくりの変化により、それぞれの骨の役割もどのように変化してきたのかを、進化の歴史から読み解くことができると考えられます。
【用語解説】
注1) 肩帯(pectoral girdle)
前足と体をつなぐ骨のまとまりを「肩帯(または胸帯)」と呼ぶ。ヒトを含む哺乳類では主に鎖骨と肩甲骨から構成されているが、動物によって構成する骨の種類や形は異なる。例えば、爬虫類や鳥類では「烏口骨」が、鎖骨や肩甲骨とあわせて肩帯を構成している(図 3)。
注2) コラーゲン線維の配向(collagen fiber orientation)
骨は、骨塩とコラーゲン線維から構成されている。コラーゲン線維は、骨に加わる力に応じて特定の方向にそろうことが知られており、その配向を調べることで、骨にどのような力が加わっていたのかを推定することができる。
注3) 皮質骨の発達度(cortical bone robustness)
骨を構成する硬く緻密な部分を「皮質骨」と呼ぶ。骨の強度を支える重要な部分であり、その発達(厚さ)の程度を調べることで、骨がどの程度の力に耐えられるのかを推定する手がかりになる。本研究では、体重を支える大腿骨の骨を基準にして、発達度を相対評価した。
【研究資金】
本研究は、科研費による研究プロジェクト(21J14927、26KJ0038)の一環として実施されました。
【掲載論文】
題名:
Bone histological evidence for posture-related load transmission in the talpid pectoral girdle.
(モグラ類の肩帯における姿勢に関連した荷重伝達の骨組織学的証拠)
著者名:
D. Nakai(仲井大智)
掲載誌:
Journal of Anatomy
掲載日:
2026 年 8 月 6 日
DOI:
10.1111/joa.70222
【参考図】
図1.モグラ類の前足の姿勢
(a)は一般的な哺乳類の前足の姿勢、(b)はモグラ類の前足の姿勢。モグラ類は、前足を体の横に大きく広げた「バンザイ」のような姿勢をとる。一般的な哺乳類では、前足が受ける力によって肩甲骨に圧縮が加わると予想される。それに対して、モグラ類はバンザイした姿勢で歩行したり前足を動かして土を掘るため、一般的な哺乳類とは異なる力が肩帯に加わり、それを受け止める骨が異なると予想される。
図2.モグラ類とジャコウネズミの鎖骨・肩甲骨にみられる骨の内部構造の違い
(a)コラーゲン線維の配向と、(b)皮質骨の発達度を種間比較した。破線は、値が 1:1 の比率となる境界を示す。モグラ類では鎖骨で、ジャコウネズミでは肩甲骨で、前足から伝わる力に対応した特徴が強くみられた。このことから、モグラ類では鎖骨が、ジャコウネズミでは肩甲骨が、前足から伝わる力をより強く受け止めていることが示唆された。
図3.進化にともなう肩帯の多様化
アカントステガなどの初期の陸上脊椎動物から、現在の哺乳類や鳥類まで、肩帯を構成する骨の種類や形は大きく変化してきた。こうした肩帯の変化は、動物の姿勢や運動の仕方の変化と関係していると考えられる。










