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2026-08-06

末梢性T細胞リンパ腫の新規治療戦略を開発~BVとPLK1阻害薬の併用療法の臨床応用に期待~

寄稿者:北海道大学

《ニュース概要》
ポイント
・難治性の悪性リンパ腫「末梢性 T 細胞リンパ腫(PTCL)」の新規治療戦略を開発。
・PTCL に対して BV と相乗効果を示す薬剤として PLK1 阻害薬を同定。
・BV と PLK1 阻害薬の併用療法の臨床応用に期待。

■概要
北海道大学大学院医学院博士課程 4 年の森 祐斗氏と北海道大学病院血液内科の中川雅夫講師らの研究グループは、同大学大学院薬学研究院(前仲勝実教授)と共同研究で、難治性の悪性リンパ腫「末梢性 T 細胞リンパ腫(peripheral T-cell lymphoma; PTCL)」の新規治療戦略を開発しました。
PTCL は成熟 T 細胞に由来する悪性リンパ腫で、悪性リンパ腫全体の約 7%を占める希少疾患です。PTCL は一部の病型を除き既存の治療に対する反応性が乏しく、新しい治療法の開発が求められています。PTCL では CD30*1 が高率に陽性であり、同分子を標的とした抗体薬物複合体のブレンツキシマブベドチン(BV)が広く使われていますが、奏効率は十分ではなく、BV を用いた新規治療戦略の開発が予後の改善につながります。

今回の研究では、化合物ライブラリーを用いたスクリーニングにより、BV と相乗効果を示す薬剤として PLK1*2 阻害薬を同定しました。BV と PLK1 阻害薬の併用投与により有糸分裂の停止が引き起こされ、細胞のアポトーシスを誘導することを見出しました。さらに、有糸分裂の停止は紡錘体チェックポイント (spindle checkpoint complex; SAC)*3に依存することを解明しました。さらに、細胞株由来と患者組織由来の異種移植マウスモデルを用いて、生体内でも BV と PLK1 阻害薬は相乗効果を示すことを解明しました。
今回の結果から、BV と PLK1 阻害薬の併用療法は PTCL に対する新規治療となりうる可能性が示され、今後の臨床応用が期待されます。
なお、本研究成果は、2026 年 7 月 13 日(月)公開の Leukemia 誌にオンライン掲載されました。

メイン画像:本研究成果の概要図

【背景】
末梢性 T 細胞性リンパ腫(PTCL)は成熟 T 細胞に由来する悪性リンパ腫で、ALK 陽性未分化大細胞型リンパ腫(ALK-positive anaplastic large cell lymphoma; ALK+ ALCL)、ALK 陰性未分化大細胞型リンパ腫(ALK- ALCL)、成人 T 細胞性白血病/リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma; ATLL)などの多様な病型を含む疾患です。PTCL は CD30 を高率に発現することが知られており、CD30 を標的とした抗体薬物複合体のブレンツキシマブベドチン(BV)は、初発並びに再発・難治性の CD30陽性 PTCL に対して広く用いられています。しかし、BV に治療抵抗性を示すまたは治療後に再発する症例が多く、治療効果は十分とは言えません。研究グループは以前細胞周期の制御因子が BV 感受性亢進に重要であること突き止めました(Suto et, al. Leukemia. 2024)。そこで細胞周期に関連した化合物ライブラリーを用いて BV と相乗効果を示す薬剤を同定することにしました。

【研究手法】
研究グループは CD30 陽性 PTCL における BV と相乗効果を示す薬剤を同定するために、PTCL 細胞株に対して BV と細胞周期に関連した化合物を投与するスクリーニングを実施しました。具体的には、ALK+ALCL 細胞株と ATLL 細胞株に対して BV と微小管阻害薬やオーロラキナーゼ阻害薬、サイクリン依存性キナーゼ阻害薬、PLK 阻害薬といった細胞周期に関連する化合物を投与し、3 日後に細胞の生存率を測定しました。そして Bliss 独立モデルという薬剤の相乗効果を評価するモデルを用いて、それぞれの薬剤について BV と相乗効果を有するかを評価しました。

【研究成果】
上記のスクリーニング結果より、二つの細胞株において BV と相乗効果を示す薬剤として volasertib、GSK461364、onvansertib という 3 種類の化合物を同定し、それらはいずれも PLK1 阻害薬でした。確認実験として 4 種類の CD30 陽性 PTCL 細胞株に対して BV とそれぞれの化合物を投与したところ、いずれの化合物も BV と相乗効果を認めました(図 1)。3 種類の PLK1 阻害薬のうち、volasertibが最も臨床試験の実績が豊富であり安全性も確認されていることから、以降の実験では volasertib を用いる方針としました。細胞周期解析やウエスタンブロット解析では、BV と volasertib の併用投与により M 期の細胞割合が増加し、有糸分裂の停止が起こっていることを見出しました。さらにアポトーシスマーカーの発現も増加しており、有糸分裂の停止によりアポトーシスが誘導されることが示唆されました(図 2)。また、紡錘体チェックポイント(SAC)の制御因子である Mps1 を阻害することによりM期マーカーの発現が低下し、有糸分裂の停止はSAC依存性であることを突き止めました。最後に細胞株由来と患者組織由来の異種移植モデルを用いて、BV と volasertib は生体内でも相乗効果を示すことを明らかにしました(図 3)。

【今後への期待】
本研究では、化合物ライブラリースクリーニングを用いて、CD30 陽性 PTCL に対して BV と相乗効果を示す薬剤として PLK1 阻害薬を同定しました。特に volasertib は臨床試験で安全性が確認されている薬剤であることから、今後BVとvolasertibの併用療法が臨床応用されることが期待されます。

【謝辞】
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JP24K02315、JP23K15314、JP24K19190、JP25K23968、JP20H05873)、日本医療研究開発機構(AMED)研究費(課題番号:JP22ama121037、JP243fa627005)、高松宮妃癌研究基金、及び武田科学振興財団の支援を受けて遂行されたものです。

■論文情報
論文名:PLK1 inhibition enhances Brentuximab vedotin efficacy in CD30-positive T-cell lymphoma via spindle assembly checkpoint activation
(PLK1 阻害は CD30 陽性 PTCL において紡錘体チェックポイントの活性化を通して BV の有効性を増強する)
著者名:森 祐斗 1、須藤啓斗 2、武井則雄 3、横山慶人 2、千葉雅尋 2、石尾 崇 2、後藤秀樹 2、遠藤知之 2,4、長谷川寛雄 5、前田道之 6、乙黒聡子 7、前仲勝実 7,8,9,13、豊嶋崇徳 2、Yibin Yang11、中川雅夫 2,12
1.北海道大学大学院医学院
2.北海道大学大学院医学研究院
3.北海道大学大学院医学研究院附属動物実験施設
4.北海道大学病院感染制御部
5.長崎大学病院検査部
6.京都大学ウイルス・再生医科学研究所
7.北海道大学大学院薬学研究院生体分子機能学研究室創薬科学研究教育センター
8.北海道大学 グローバルステーション(バイオサーフェス・創薬)
9.北海道大学 人獣共通感染症国際共同研究所 病原体構造解析部門
10.九州大学大学院薬学研究院
11.フォックスチェイス癌センター
12.北海道大学病院
13.北海道大学 One Healthリサーチセンター

雑誌名:Leukemia(血液内科学の専門誌)
DOI:10.1038/s41375-026-03055-5
公表日:2026 年 7 月 13 日(月)(オンライン公開)

【参考図】
添付のPDFよりご確認ください

【用語解説】
*1 CD30 
TNF レセプタースーパーファミリーに属する膜結合型糖タンパク質。

*2 PLK1 
Polo-like kinase1。有糸分裂の開始や紡錘体形成など有糸分裂の際に様々な役割を果たすセリン/スレオニンキナーゼ。

*3 紡錘体チェックポイント (SAC) 
有糸分裂において、全ての染色体に微小管が正常に接着するまで染色体の分離を防ぐ仕組み。