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2026-07-28

なぜチョウチンアンコウのオスはメスに寄生するのか? ――数理モデルが解き明かす深海の繁殖戦略――

寄稿者:東京大学

《ニュース概要》
発表のポイント
 ・チョウチンアンコウのオスがメスに永久に結合する繁殖戦略(寄生雄)が進化する条件を明らかにしました。
・「出会いにくさ」が寄生雄の進化を促すことを数理モデルによって初めて示しました。
 ・生物の多様な繁殖戦略がどのように進化したのかを理解することへの貢献が期待されます。

■概要
東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程の佐藤雄亮(現 沖縄科学技術大学院大学 博士研究員)と、瀧本岳准教授による研究グループは、深海のチョウチンアンコウで見られる「寄生雄」と呼ばれる特殊な繁殖戦略が進化する条件を理論的に明らかにしました。チョウチンアンコウの一部の種では、オスがメスの体に永久に結合し、メスから栄養をもらいながら繁殖をおこないます。この繁殖戦略では、将来の繁殖機会を確保できる一方で、雌雄に負担も生じます。そのため、この極めて特殊な繁殖戦略がどのような条件で進化したのかは十分に解明されていませんでした。本研究では数理モデルを用いて、雌雄が出会いにくい環境では、将来の繁殖機会を確保する利益(繁殖保証)によって寄生雄が進化しやすくなることを示しました。本成果は、チョウチンアンコウに限らず、生物が繁殖相手を見つけにくい環境へどのように適応してきたのかを理解するための新たな理論的基盤となることが期待されます。

上図
図1:パートナーと出会いにくい深海で寄生雄が進化する仕組み
深海では個体群密度が低く、オスとメスとが出会う機会が限られます。
本研究は、このような環境では繁殖機会を確保する利益(繁殖保証)が大きくなり、寄生雄が進化しやすくなることを示しました。

■発表内容
チョウチンアンコウの仲間には、オスがメスの体に永久に結合して生活する「寄生雄」と呼ばれる極めて特殊な繁殖戦略が知られています。寄生したオスはメスから栄養を受け取りながら精子を提供し続けるという、脊椎動物の中でも独特な生態を示します。しかし、このような繁殖戦略がなぜ進化したのか、その進化的な仕組みは十分に解明されていませんでした。

深海では個体群密度が低く、繁殖相手と出会う機会が限られるため、寄生雄は将来の繁殖機会を確保するための適応であると考えられてきました。一方で、寄生雄には繁殖保証という利益だけでなく、雌雄にさまざまな負担も伴います。このような利益と不利益のバランスのもとで、出会いにくさがどのような進化的メカニズムを通じて寄生雄の進化を促すのかについては、理論的な検討がほとんど行われていませんでした。

本研究では、オスがメスへの寄生を試みる確率と、メスが寄生を受け入れる確率が進化する数理モデルを構築し、寄生雄が進化する条件を解析しました。モデルでは、寄生によってオスもメスも将来の繁殖機会を確保できるとしています。一方、メスは寄生したオスを維持するために栄養を使うので、寄生が成立したペアでは産子数が減少すると仮定しています。また、オスは一度寄生すると他のメスと繁殖する機会を失うと仮定しました。これにより雌雄双方の利益と不利益を考慮しました。

下図
図2:寄生雄が進化する条件
オスとメスが出会いにくく、寄生のコストが小さいほど寄生雄が進化しやすくなることが示されました。
オスとメスが出会いやすくなると、一部のペアのみで寄生が起こる状態も予測されました。

解析の結果、雌雄が出会いにくい環境では、オスが寄生を試みる確率とメスが寄生を受け入れる確率の双方が進化しやすくなり、寄生雄が成立することが示されました。これは、将来の繁殖機会を確保すること、すなわち「繁殖保証」の利益によるものです。一方で、寄生によるコストが大きい場合には寄生雄は進化しにくくなり、繁殖保証の利益と寄生のコストのバランスが重要であることも明らかになりました。

本研究は、寄生雄の進化を繁殖保証という進化メカニズムから説明した初めての理論研究です。得られた成果は、チョウチンアンコウの独特な繁殖戦略の理解に貢献するだけでなく、生物が繁殖相手を見つけにくい環境にどのように適応してきたのかを理解するための新たな知見を提供します。また、他の植物や動物で見られる単為生殖や自家受粉などの多様な繁殖保証戦略の進化を理解する上でも重要な理論的基盤となることが期待されます。

■発表者・研究者等情報
沖縄科学技術大学院大学
定量マクロ生態学グループ
佐藤 雄亮 博士研究員 研究当時:東京大学大学院農学生命科学研究科 博士課程

東京大学大学院農学生命科学研究科
瀧本 岳 准教授

■論文情報
雑誌名:Proceedings of the Royal Society B
題名:Reproductive assurance drives the evolution of parasitic males in anglerfishes 
著者名:佐藤雄亮、瀧本岳
DOI:10.1098/rspb.2026.1268
URL:https://doi.org/10.1098/rspb.2026.1268

■研究助成
本研究は、科研費「生態-進化フィードバックで解く送粉ネットワークのパラドクス(課題番号:21K06330)」、「シミュレーションと深層学習の融合による生態系レジームシフト予兆シグナルの開発(課題番号:24K03127)」の支援により実施されました。

■用語解説
(注1)寄生雄
チョウチンアンコウの一部の種で見られる繁殖戦略。オスがメスの体に永久に結合し、メスから栄養をもらいながら生涯にわたって繁殖を行う。

(注2)繁殖保証
繁殖機会または繁殖相手を確保することによって確実に子供を残せるようにすること。本研究では、この利益が寄生雄の進化を促す重要な要因であることを示した。

(注3)数理モデル
生物の行動や進化の仕組みを数式で表し、その結果を解析する手法。