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2026-07-03

\“超融合”したミトコンドリアを解析/ ミトコンドリアRNAを介した自然免疫活性化の新たな仕組みを発見 ―新たながん治療戦略への応用に期待―

大阪大学  徳島大学  島根大学  理化学研究所

【研究成果のポイント】
 ストレスなどによってミトコンドリア※1が異常に長くつながる“超融合”状態になると、ミトコンドリア内部の RNA※2が細胞質へ漏れ出し、ウイルス感染時に働く自然免疫応答※3が活性化されることを発見。
 ミトコンドリアの形の変化が自然免疫応答にどのように関わるのか、これまで十分には分かっていなかったが、ミトコンドリアの分裂が停止した細胞を解析することで、ミトコンドリア RNA の漏出が自然免疫活性化の引き金となることを明らかに。
 ミトコンドリアの形の変化を利用した新たながん治療戦略の開発など、幅広い生命科学・医科学分野への応用に期待。

概要
大阪大学大学院理学研究科の安田樹特任研究員(研究当時、現:徳島大学先端酵素学研究所助教)、石原直忠教授、徳島大学先端酵素学研究所の小迫英尊教授、島根大学医学部の石原孝也准教授、理化学研究所 生命機能科学研究センター の尾上健太テクニカルスタッフ I らの研究グループは、ミトコンドリアの形の変化により自然免疫が活性化される新たな仕組みを発見しました。
ミトコンドリアは細胞内でエネルギーを産生する、私達の体に不可欠な細胞小器官です。一方で、免疫応答をはじめとする様々な細胞シグナルの制御にも関与することが知られています。しかし、ミトコンドリアの形態変化が自然免疫応答にどのような影響を与えるのかについて、十分には解明されていませんでした。
ミトコンドリアは分裂と融合※4を活発に繰り返して形を変える、ダイナミックな細胞小器官であることも知られています。
今回、研究グループは、ミトコンドリア分裂因子の機能抑制や細胞ストレスによって、ミトコンドリアが異常に長くつながる“超融合”状態を誘導し、その影響を詳細に解析しました。その結果、ミトコンドリア内部の RNA が細胞質へ漏出し、ウイルス感染時に働く自然免疫応答を活性化することを見出しました。さらに、この現象によってがん細胞が免疫細胞に攻撃されやすくなり、腫瘍の増殖が抑制される可能性も示されました(図1)。
本研究成果は、ミトコンドリア異常と免疫応答との関係を理解する上で重要な知見であり、自然免疫を活性化する新たながん治療戦略の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年 6 月 26 日に米国科学誌「Cell Reports」(オンライン)に掲載されました。

【石原直忠教授のコメント】
ミトコンドリアはもともと細菌に由来すると考えられており、独自の遺伝子を持つ特徴的な細胞小器官です。また、細胞内でダイナミックに形を変える様子を顕微鏡で観察することができます。今回の研究により、こうしたミトコンドリアの形態変化と自然免疫応答との間に、これまで知られていなかった新たな関係性が見出されました。ミトコンドリアの進化的な起源との関連を感じさせる、大変興味深い結果だと考えています。

研究の背景
ミトコンドリアは細胞内でエネルギーを産生するだけでなく、様々な細胞応答を制御する重要な役割を担っています。特に近年、ミトコンドリアから漏れ出した DNA や RNA が自然免疫応答を引き起こすことが明らかとなり、注目を集めています。
また、ミトコンドリアは細胞内で融合と分裂を繰り返しており、様々な細胞応答や病態に伴って、その形態が大きく変化することも知られています。しかし、そのようなミトコンドリアの形態変化が、ミトコンドリア内部の RNA の漏出や自然免疫応答にどのように関わるのかは十分に解明されていませんでした。

研究の内容
この研究では、ミトコンドリア分裂因子の機能抑制や細胞ストレスによってミトコンドリアが過度に融合した細胞を用いて、その影響を詳しく解析しました。その結果、ミトコンドリアが異常に伸長すると、ウイルス感染時に働く自然免疫応答が活性化されることを見出しました。また、ミトコンドリア内部の RNA が細胞質へ漏れ出し(図2)、細胞内 RNA センサー※5によって認識されることで、免疫関連遺伝子の発現が誘導されることも分かりました。これらの結果から、ミトコンドリアの形態変化が細胞内の免疫シグナルを制御する新たな仕組みが明らかになりました。
さらに、ミトコンドリアが過度に融合したがん細胞では、免疫細胞による攻撃を受けやすくなることが分かりました。加えて、マウス移植腫瘍モデルでは腫瘍の増殖が抑制されることを確認しました。これらの結果から、今回見出した仕組みが生体内でも機能し、腫瘍の増殖抑制に寄与する可能性が示されました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、ミトコンドリアの形態変化と自然免疫応答を結びつける新たな分子機構が明らかになりました。今後、ミトコンドリアの形を制御することで、細胞の免疫応答を調節する新たな研究につながることが期待されます。
また、本研究で明らかになったミトコンドリア RNA の漏出による自然免疫応答の活性化は、がんのみならず炎症性疾患や加齢関連疾患などさまざまな病態にも関与する可能性があり、その理解と治療法開発への貢献が期待されます。

特記事項
本研究成果は、2026年 6 月 26 日に米国科学誌「Cell Reports」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Disrupted mitochondrial dynamics activate RNA-sensing innate immunity through mitochondrial RNA release”
著者名:Tatsuki Yasuda, Aoi Ichikawa, Kenta Onoue, Emi Ogasawara, Takaya Ishihara, Hidetaka Kosako, Naotada Ishihara
DOI:https://doi.org/10.1016/j.celrep.2026.117607

本研究は、JSPS 科学研究費助成事業 学術変革研究(A)(石原直忠)、JSPS 科学研究費助成事業 基盤研究 A(石原直忠)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業AMED-CREST(石原直忠)、JSPS 科学研究費助成事業 基盤研究 B(小迫英尊)、JSPS 科学研究費助成事業 若手研究(安田樹)、の一環として行われました。

用語説明
※1 ミトコンドリア
細胞内でエネルギーを産生する働きを持つ細胞小器官。「細胞の発電所」とも呼ばれ、生命活動に必要なエネルギーの大部分を作り出している。近年では、エネルギー産生だけでなく、細胞死や免疫応答など様々な細胞機能の制御にも関わることが明らかになっている。
※2 ミトコンドリア内部のRNA
ミトコンドリアは、太古の細菌が細胞内に取り込まれて共生するようになったことで生じたと考えられている(共生説)。そのため、細胞核の DNA とは別に独自の DNA を持ち、そこから様々な RNAが作られる。通常、これらの RNA はミトコンドリア内部に留まっているが、細胞質へ漏れ出すと、細胞がウイルス感染時と似た反応を起こし、免疫応答が活性化されることがある。
※3 自然免疫応答
体内に侵入した病原体などを感知し、排除するための生体防御システム。生まれつき備わっており、感染初期から速やかに働く。
※4 分裂と融合
ミトコンドリアは、分裂して小さくなったり、融合して大きくなったりしながら、絶えず形を変化させている。このような動的な形態変化はミトコンドリアの品質管理に重要であり、ストレス応答や個体の発生・分化など、さまざまな生命現象に関わることが知られている。
※5 RNA センサー
細胞内に侵入したウイルスなどの RNA を感知し、自然免疫応答を活性化するタンパク質群。ウミトコンドリアは、分裂して小さくなったり、融合して大きくなったりしながら、絶えず形を変化させイルス感染から生体を防御する上で重要な役割を担う。本研究では RNA センサーの一つである RIG-Iが、細胞質へ漏れ出したミトコンドリア RNA を認識することが示された。

メイン画像:ミトコンドリアの超融合が免疫反応を引き起こす
下部画像:ミトコンドリアが超融合すると、ミトコンドリア RNA が細胞質に漏れ出す