寄稿者:東京大学
《ニュース概要》
発表のポイント
・つま先立ち歩行が特徴的な、ビーグル犬の稀な遺伝病: Musladin-Lueke症候群が知られている。国内でも発症例がうわさされていたが、報告としてまとめられたものはなかった。
・今回、国内での発症例1例について、遺伝子検査により確定診断し、治療経過を報告した。
・同様の症例に対する遺伝子診断検査や、診断確定後の緩和治療のご提案が可能である。
■画像解説
本報告で紹介したMusladin-Lueke症候群の症状、診断、緩和療法
■概要
東京大学大学院農学生命科学研究科の米澤智洋准教授らの研究グループは、ビーグル犬の遺伝性疾患:Musladin–Lueke症候群(MLS)について、確定診断のうえ緩和治療を行った一例を報告しました。
MLSは、つま先立ち歩行、四肢関節の可動域低下、眼窩の外側偏位、停留精巣などを特徴とする稀な遺伝性疾患です。今回、これらの症状を持つ生後6か月のビーグル犬が、東京大学大学院農学生命科学研究科附属動物医療センターに紹介受診されました。遺伝子検査をおこなったところ、原因遺伝子ADAMTSL2の変異が確認され、MLSと確定診断されました。
この症例は慢性的につま先を負傷し歩きにくそうにしていましたが、つま先を保護する特注ブーツを作製して履かせたところ、生活の質が大きく改善し、よく歩けるようになりました。
本疾患の認知度は低く、未診断の症例が多く存在する可能性があります。研究グループは、遺伝子診断や緩和治療の提案が可能であるとして、疑わしい症例の紹介を呼びかけています。
■発表内容
Musladin–Lueke症候群(MLS)は、ビーグル犬で認められる常染色体劣性遺伝性疾患です。ADAMTSL2遺伝子のホモ接合性ミスセンス変異(c.660C>T; p.R221C)によって引き起こされ、結合組織の変性により、関節の可動域低下によるつま先立ち歩行、眼窩の外側偏位、停留精巣などの症状を呈します。有病率は極めて稀で、ヨーロッパ、北米、南米における報告はありますが、日本での症例報告はこれまでありませんでした。
今回、東京大学大学院農学生命科学研究科の米澤智洋准教授らの研究グループは、国内のMLS発症例1例について、確定診断と緩和治療を行いました。
症例は、生後6か月の未去勢雄のビーグル犬でした。四肢におけるバレリーナのようなつま先立ち歩行を主訴に、東京大学大学院農学生命科学研究科附属動物医療センターを紹介受診されました。上記の歩様異常のほか、手根・足根関節の可動域の低下、眼窩の外側偏位、停留精巣が認められました。血液検査、神経学的検査、レントゲン検査では明らかな異常は認められませんでした。本症例の遺伝子検査を行ったところ、諸外国の既報と同様の変異(ADAMTSL2遺伝子エクソン7のホモ接合変異(c.660C>T; p.R221C))が確認されました。以上より、本症例はMLSと確定診断されました。 また本症例では、つま先立ち歩行を続けるあまり、左右の前肢つま先に異常な重量負荷を原因とする慢性的な擦過傷が確認されました。そこで、つま先を保護する特注ブーツを考案・作製し、屋外歩行時にはこの装具を着用するよう指示しました。その結果、擦過傷の改善と、症例の自発的な運動量の増加が認められ、症例の生活の質の改善が示唆されました。
本症例の家族情報は得られませんでしたが、MLS様の症状を示すビーグル犬の存在は逸話的には知られており、未診断の症例が日本国内に多く存在する可能性があります。今後、獣医師間で本疾患に対する認識を高め、遺伝子診断による繁殖コントロールを進めていくことが重要です。また、発症例の緩和治療においては、特注ブーツの有効性が示されました。当研究グループは、MLSの遺伝子診断や緩和治療の提案が可能であることから、疑わしい症例の紹介を呼びかけています。
■発表者・研究者等情報
東京大学 大学院農学生命科学研究科
小池 真友香 博士課程
下森 文敬 博士課程(研究当時)
鈴木 生真 特任研究員
望月 学 教授
池田 彬人 特任研究員
前田 真吾 准教授
桃井 康行 教授
米澤 智洋 准教授
■論文情報
雑誌名:The Journal of Veterinary Medical Science
題名:Comprehensive diagnosis and Management of Musladin–Lueke Syndrome in a Beagle in Japan
著者名:Mayuka Koike, Fumitaka Shitamori, Ikuma Suzuki, Manabu Mochizuki, Akihito Ikeda, Shingo Maeda, Yasuyuki Momoi, Tomohiro Yonezawa










