寄稿者:北海道大学 / 水産研究・教育機構
《ニュース概要》
■ポイント
・深海性で小型の卵胎生サメであるフジクジラは東北太平洋沖で非常に高い生物量を示す。
・本種の年齢査定法を確立し、成長速度を推定するとともに繁殖特性を調査。
・産子数は少ないものの、近縁種と比べ高成長かつ早熟であることが繁栄につながると指摘。
■概要
北海道大学大学院水産科学研究院の山村織生准教授、同大学大学院水産科学院修士課程 2 年の平原新大氏及び水産研究・教育機構水産資源研究所の成松庸二副部長らの研究グループは、東北太平洋沖に卓越して分布する深海性の小型サメ種であるフジクジラについて、年齢査定法を確立し、成長速度と繁殖特性を調査しました。
深海性のサメ類は、一般に成長が遅く卵胎生で産み出す子の数が少ないことから繁殖力が弱く、多くの種が絶滅危惧種に指定されています。一方、東北太平洋沖の深海に生息するフジクジラは小型のサメでありながら非常に高い生物量を示しており、その繁栄の理由は長らく不明でした。本研究で明らかにした成長速度や成熟年齢を他のツノザメ目サメ類と比べたところ、フジクジラは体のサイズが最小で早熟かつ最大の成長率を示しました。このことから、フジクジラは少産ながらも成長が速く早熟である r−選択*1的な生活史特性により、高い生物量を実現していると結論付けられました。
本研究で明らかにしたフジクジラの生活史特性は、これまで低成長で成熟に時間を要すると考えられてきた深海性サメ類の新たな側面を示すものであり、板鰓類の多様な生態を理解するうえで重要な情報となり得ます。
なお、本研究成果は、2026 年 5 月 31 日(日)公開の Journal of Fish Biology 誌にオンライン掲載されました。
上図:フジクジラ(上は雄、下は雌の成熟個体)
【背景】
深海性のサメ類は、低成長率や晩成熟などの特徴から個体数の増加率が低く、多くの種が絶滅危惧種に指定されています。一方で、フジクジラは東北太平洋沖の深海で極めて高い個体数密度を示します。このような特異的な種であるにも関わらずその生活史特性は不明でした。
【研究手法】
東北太平洋沖でフジクジラ 1,563 個体を採集し、体長、成熟の有無、雌の卵数などを記録しました。また、第二背鰭棘の断面に形成される輪紋(図 1)が年輪であることを確認し、415 個体の薄片を対象に年齢を査定しました。これを基に雌雄別の年齢-体長関係や成熟年齢を推定し、他のツノザメ類と生活史特性を比較しました。
【研究成果】
フジクジラはツノザメ目の中で最大の成長率と最小の体サイズを持ち、成熟年齢も雌 6.5 歳、雄 3.8歳と早熟だった一方、卵数は他種と比べて比較的少ない値を示しました。このことから、本種は雌が一回に出産可能な子の数は少ないものの、小さな体サイズと速い成長に加え早熟である r−選択的な生活史戦略により高い生物量を実現していると考えられました。
【今後への期待】
本研究の成果は、フジクジラがこれまで知られてきた深海性板鰓類とは異なる生活史特性を持つことを示唆しており、これは板鰓類の多様な生態を理解するうえで重要な知見であると考えられます。
【謝辞】
本研究は水産資源調査・評価推進委託事業の支援により実施されました。
■論文情報
論文名:Life-history traits of the blackbelly lanternshark Etmopterus lucifer off the Pacific coast of northeastern Japan(東北太平洋沖に生息するフジクジラの生活史特性)
著者名:平原新大 1、洲崎 舞 1、成松庸二 2、山村織生 3(1 北海道大学大学院水産科学院、2 水産研究・教育機構水産資源研究所、3北海道大学大学院水産科学研究院)
雑誌名:Journal of Fish Biology(魚類学の専門誌)
DOI:10.1111/jfb.70514
公表日:2026 年 5 月 31 日(日)(オンライン公開)
【参考図】
下図:
図 1. 第二背鰭棘(左)とその断面に形成された輪紋(右)。写真個体は 6 歳と推定された。
【用語解説】
*1 r−選択 …
小型、早熟、多産により個体数の増加率を高めようとする進化の方向性。反対の方向性は、少産、晩熟ながら大型化し強い種間競争力の実現を目指す K−選択である。










