寄稿者:北里大学
《ニュース概要》
北里大学獣医学部の酒居幸生講師らの研究グループは、イヌの消化管型リンパ腫細胞に対して、抗がん剤「カバジタキセル」が強力な抗腫瘍効果を示すことを明らかにしました。さらに、担がんマウスを用いた検討においても、カバジタキセルは腹水貯留を軽減し、生存期間を延長することを確認しました。本研究成果は、2026 年 6 月 1 日付で国際学術誌Veterinary and Comparative Oncology に掲載されました。
■研究成果のポイント
・カバジタキセルは、イヌの消化管型リンパ腫細胞に対して極めて低濃度で強力な抗腫瘍効果を示しました。
・カバジタキセルは、微小管【注 1】を安定化させることで細胞周期停止およびアポトーシス(細胞死)を誘導しました。
・担がんマウスにおいて腹水貯留を抑制し、生存期間を有意に延長しました。
・カバジタキセルは、本疾患に対する新たな治療薬候補として有望であることが示されました。
■研究の背景
消化管型リンパ腫は、胃腸管を中心に腫瘍性リンパ球が増殖する疾患です。イヌに発生する腫瘍の中でも特に予後が悪く、有効な治療法が限られていることが課題となっています。本研究グループはこれまでに、本疾患に対する新規治療薬を探索するため、1134 種類の FDA 承認薬を対象とした薬剤スクリーニングを実施し、最有力候補としてタキサン系抗がん剤のカバジタキセルを見出しました。カバジタキセルはヒトの前立腺がんに対する治療薬として承認されていますが、イヌのがんに対する効果は明らかになっていませんでした。そこで本研究では、イヌの消化管型リンパ腫細胞に対するカバジタキセルの効果を詳細に検討しました。
■研究内容と成果
はじめに、イヌ消化管型リンパ腫細胞株(CLC、Ema、Nody-1)にカバジタキセルを添加したところ、濃度依存的に細胞生存率が低下しました(図 1)。同細胞株における 50%阻害濃度は、過去に報告されているヒト前立腺がん細胞株と比較して著しく低く、高い感受性を有することが示されました。
続いて、カバジタキセルの作用機序を調べたところ、微小管を安定化させることで腫瘍細胞の細胞周期を停止させ、アポトーシスを誘導していることが分かりました。
さらに、イヌ消化管型リンパ腫細胞(CLC)を腹腔内移植した免疫不全マウスに対してカバジタキセルを投与したところ、腹水貯留が抑制され、生存期間が有意に延長しました(図2)。
以上の結果より、カバジタキセルはイヌ消化管型リンパ腫に対して強力な抗腫瘍効果を示し、新たな治療候補薬として有望であることが示されました。
■画像解説
上図:図 1:カバジタキセルを添加したイヌ消化管型リンパ腫細胞株の細胞生存率
データは平均値±標準誤差(n=5)で表記している。
下図:図 2:カバジタキセルまたは溶媒が投与された担がんマウス
A:治療開始 5 日後の外貌。溶媒投与群では腹水貯留による顕著な腹囲膨満が認められた。
B:各群の生存曲線。●は打ち切り。
■今後の展開
本研究成果は、イヌの消化管型リンパ腫に対する新規治療法の開発につながる可能性があります。現在、自然発症例を対象としたカバジタキセルの臨床試験を実施するため、北里大学を含む複数の大学において準備を進めています。今後は実際の症例における治療効果および安全性を検証し、本疾患に対する新たな治療選択肢として実用化を目指します。
■論文情報
掲載誌:Veterinary and Comparative Oncology
論文名:Cabazitaxel demonstrates potent antitumour activity against canine large-cell alimentary lymphoma in vitro and in vivo
著 者:Kosei Sakai*, Nana Suzuki, Masaru Furuya, Hiroshi Ohta, Satoshi Kameshima, Shunsuke Shimamura
(* 責任著者)
DOI:10.1111/vco.70080
※本研究は、独立行政法人日本学術振興会科研費(課題番号:JP23K14087、JP25K09422)および国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)生命科学・創薬研究支援基盤事業創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)(課題番号:JP23ama121054)の支援を受けて実施されました。
■用語解説
注 1:微小管
細胞骨格を形成するタンパク質フィラメントであり,細胞分裂時の紡錘体や細胞内の物質輸送のレールとして機能している。










