寄稿者:京都大学
【概要】
カエルの幼生であるオタマジャクシは、大きく変動する環境の中で生き延びるために、姿や体色を柔軟に変化させることが知られています。最近の研究で、東日本に広く分布するヒガシニホンアマガエルの幼生は、捕食者であるトンボの幼虫(ヤゴ)が存在する環境では、尾を鮮やかなオレンジ色に変化させることがわかっていました。一方で、この変化が捕食回避の上でどのような役割を果たすのかはわかっていませんでした。
京都大学大学院理学研究科 野田叡寛 博士課程学生(研究当時)および渡辺勝敏 同教授の研究グループは、尾がオレンジ色になったヒガシニホンアマガエルの幼生と通常の形態をもった幼生をヤゴと同じ水槽に入れることで、ヤゴがどちらの幼生のどの体の部位を攻撃するのか、その捕食行動を観察しました。その結果、オレンジ色の尾は他の部位よりも多く攻撃されるだけでなく、オレンジ色の尾への攻撃は他の部位の攻撃よりも失敗しやすいことがわかりました。このことから、鮮やかなオレンジ色の尾は捕食者の攻撃を引きつけ、より大事な胴体への攻撃をそらす役割があるだけでなく、視覚の撹乱効果などによって捕食者の攻撃精度を低下させる役割があることが示唆されました。このように捕食者により誘導された形質が実際に捕食回避に役立つことを実験的に明らかにした例はわずかです。今後は、このような鮮やかな体色変化が、ヤゴ以外の捕食者にはどのような効果を持っているのかを調べることで、鮮やかな体色をもつことのメリットだけでなく、デメリットにも迫ることが期待されます。
本成果は2026年5月12日に欧州の国際学術誌「Amphibia-Reptilia」にオンライン掲載されました。
1. 背景
動物の体色は、自然界で生き残るために重要な役割を持っています。多くの動物は、周囲の環境にまぎれる隠蔽色によって捕食者から見つかりにくくなります。一方で、あえて目立つ色を持つことで身を守る動物もいます。たとえば、毒を持つことを捕食者に知らせる警告色や、捕食者を驚かせる目玉模様などが知られています。さらに、目立つ色が「おとり」として働く場合もあります。これは、捕食者の攻撃を頭や胴体などの命に関わる部位から、尾など比較的失っても致命的ではない部位へそらす仕組みです。こうした防御は、単に身を隠すだけでなく、捕食者の注意や攻撃を操作するという点で、非常に興味深い戦略です。
カエル類の幼生、いわゆるオタマジャクシの中には、捕食者の存在を感じると、体の形や行動を変えるものがいます。このように、環境に応じて形質を変化させる性質は表現型可塑性(*1)と呼ばれます。たとえば、捕食者がいる環境では、オタマジャクシの尾が高くなったり、泳ぎ方が変化したりすることがあります。これらの変化は、捕食者から逃げるための防御として研究されてきました。特にアマガエル属のいくつかの種では、ヤゴなどの捕食者がいると、オタマジャクシの尾が高くなるとともに、鮮やかなオレンジ色に変化することが、これまでの研究でわかってきています。しかし、このような体色の変化に、捕食を回避する上でどのような役割があるのかは、これまでわかっていませんでした。
派手な色で目立つ尾は、捕食者に見つかりやすくなり、危険にも思えます。その一方で、もしこの色が捕食者の攻撃を尾へ誘うなら、命に関わる胴体への攻撃を減らすことができるかもしれません。そこで本研究では、東日本に広く分布するヒガシニホンアマガエル(Dryophytes leopardus)(*2)のオタマジャクシを対象に、捕食者によって誘導されるオレンジ色の尾が、防御としてどのように働くのかを調べました。具体的には、オレンジ色の尾が捕食者の攻撃を尾へ引きつけるのか、またその攻撃を受けたときにオタマジャクシが逃げやすくなるのかを検証しました。
2. 研究手法・成果
本研究では、捕食者であるクロスジギンヤンマのヤゴの存在によって尾の色や形が変化した「オレンジ色の尾を持つ型(オレンジ尾型)」と、捕食者の影響を受けていない「通常の尾を持つ型(通常型)」の2タイプのオタマジャクシを用意しました。これら2タイプのオタマジャクシを4個体ずつ同じ水槽に入れ、ヤゴと対面させました。そして、ヤゴがどのタイプのオタマジャクシの、どの部位を攻撃するのかをビデオで記録しました。攻撃された場所は「胴体」または「尾」に分け、攻撃の結果は「空振り」、「かみつき」、「捕食」の3種類に分類しました。
実験の結果、クロスジギンヤンマのヤゴは通常の尾よりも、オレンジ色の尾を多く攻撃することがわかりました。さらに、オレンジ色の尾を持つ個体では、胴体よりも尾が攻撃されやすくなっていました。これは、オレンジ色の尾が捕食者の注意を引きつけ、攻撃を胴体から尾へそらす「おとり」として働いていることを示唆しています。胴体は内臓などを含むため、攻撃を受けると致命傷になりやすい部位です。一方、尾への攻撃は、たとえ損傷を受けても胴体への攻撃よりは生存につながる可能性があります。そのため、捕食者の攻撃を尾へ誘うことは、オタマジャクシにとって大きな利点になり得ます。
さらに本研究では、オレンジ色の尾への攻撃は他の部位への攻撃よりも失敗に終わる割合が高いこともわかりました。つまり、ヤゴがオレンジ色の尾を狙っても、うまく捕まえられず、オタマジャクシが無傷のまま回避できることが多かったのです。この結果は、オレンジ色の尾が単なる「トカゲの尻尾切り」のような使い捨ての部位ではなく、捕食者の攻撃そのものを失敗させる働きを持つ可能性を示しています。この仕組みとして考えられるのが、「モーションダズル」と呼ばれる効果です。これは、目立つ模様や色が動くことで、捕食者が獲物の進む方向や速度を見誤りやすくなる現象です。オレンジ色の尾が泳ぐときに大きく動くことで、ヤゴが正確に狙いを定めにくくなった可能性があります。オタマジャクシは、このような効果を利用することで、捕食者の攻撃を尾に集めつつ、しかもその尾を犠牲にせずに逃げおおすことができるのはないかと考えられます。
一方で、今回の実験では、オレンジ色の個体と通常の個体の死亡率に明確な差は見られませんでした。これは、オレンジ色の尾が防御として意味を持たないということではなく、実験条件の影響が考えられます。実験水槽の中では逃げられる空間が限られていたため、野外のように十分な距離をとって逃げることが難しかった可能性があります。以上の結果から、捕食者によって誘導されるオレンジ色の尾は、捕食者の攻撃を尾へ引きつける「おとり」として機能するだけでなく、攻撃を失敗させる可能性を持つ防御形質であることが示されました。
3. 波及効果、今後の予定
本研究は、動物の派手な色がどのように防御として進化してきたのかを理解する上で、新しい視点を与えるものです。派手な色は、一般には捕食者に見つかりやすくなるため危険だと考えられます。しかし本研究は、目立つ色であっても、それが体の一部に限られ、捕食者の攻撃を命に関わりにくい部位へ誘う場合には、防御として有効になり得ることを示しました。
また、本研究は「表現型可塑性」の進化を考える上でも重要です。オレンジ色の尾は、常に発現している形質ではなく、特定の捕食者がいるときにだけ誘導される可塑的な形質です。これは、必要なときだけ防御形質を発現し、必要のないときにはそのコストを避ける仕組みとも考えられます。一方で、オレンジ色の尾を持つオタマジャクシは、すべての両生類で見られるわけではありません。むしろ、このような鮮やかな尾の呈色は、アマガエル属(*3)をはじめとした、一部のアマガエル類でしかこれまで報告されていません。このことは、オレンジ色の尾が有効な防御である一方、どの種においても簡単に進化できるわけではないことを示唆しています。
その理由として、いくつかの可能性が考えられます。第一に、オレンジ色の尾はヤゴのような特定の捕食者に対しては有効でも、別の捕食者に対してはかえって危険になるかもしれません。たとえば、魚のように動きながら広い範囲で獲物を探す捕食者に対しては、目立つ尾が見つかりやすさを高めてしまう可能性があります。第二に、オレンジ色を作るためには、色素を作る仕組みや栄養条件が必要になる可能性があります。黒色系の尾の形成と比べて、オレンジ色の形成には異なる色素や代謝経路が関わると考えられます。そのため、オレンジ色の尾を作るには、生理的なコストや資源の制約があるかもしれません。
今後は、オレンジ色の尾がヤゴ以外の捕食者に対しても有効なのかを調べることが重要です。もしヤゴには有効でも、魚や他の水生昆虫に対しては不利になるのであれば、オレンジ色の尾が限られた環境や系統でしか見られない理由を説明できるかもしれません。また、オレンジ色の尾がどのような色素によって作られているのか、その発現にどのような遺伝子や生理機構が関わっているのかを調べることも今後の課題です。これにより、なぜ一部の種だけがオレンジ色の尾を発現できるのか、ひいては一般に可塑的な防御形質がどのような条件で進化しやすいのかをより深く理解できると期待されます。
4. 研究プロジェクトについて
本研究はJST次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2110)の支援を受けて実施されました。
《用語解説》
※1 表現型可塑性
生物が捕食者の種類や状況に応じて、遺伝的変化を伴わずに行動や体の形、体色を変化させる防御の仕組みのこと。
※2 ヒガシニホンアマガエル(Dryophytes leopardus)
これまでニホンアマガエルとされてきたカエルは2025年2月に島田知彦愛知教育大学准教授らの研究によって、近畿地方を境界に東西2種に分けられることが判明した。サハリンから京都府南部付近までに分布するものは新たに「ヒガシニホンアマガエル」として新種として記載された。
※3 アマガエル属(Dryophytes属)
ニホンアマガエル類を含む約20種からなるカエルのグループ。北米と東アジアという離れた地域に隔離分布しているのが特徴。
《研究者のコメント》
「大学の農場でオレンジ色の尾をもつオタマジャクシを発見して以来、この鮮やかな尾にはどのような役割があるのだろうか、と疑問に思っていました。今回の研究により、オタマジャクシがその尾の色にふさわしい、じつに鮮やかな方法で捕食を回避している可能性に迫ることができたと感じています。本研究では、ヤゴの捕食行動を詳しく調べるために大量のビデオ撮影を行い、早送りやコマ送りを繰り返しながら攻撃の瞬間を一つひとつ確認しました。非常に根気のいる作業でしたが、その甲斐あって、オレンジ色の尾の働きが見えてくるような結果が得られ、とても嬉しく思っています。」(野田叡寛)
《論文タイトルと著者》
タイトル:
A cloakwork orange: lure and deflection effects of predator-induced bright tail colouration in Dryophytes tadpoles
(「おとり」のオレンジ: アマガエル属幼生における捕食者誘導性の橙色尾のルアー効果と攻撃偏向効果)
著者:
Akihiro Noda, Katsutoshi Watanabe(野田叡寛、渡辺勝敏)
掲載誌:
Amphibia-Reptilia
DOI:
https://doi.org/10.1163/15685381-bja10258
▼詳細はこちら
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2026-05-21-0










