寄稿者:京都大学
【概要】
京都大学大学院理学研究科の田伏良幸博士課程学生(現:中央大学共同研究員)は、屋久島に生息する野生ニホンザルを対象に、気温と湿度に応じた休息場所選択による体温調節のしくみを解明しました。
動物にとって体温調節は、生存に欠かせない重要な機能です。動物は外部環境の変化に対して柔軟に行動を変えることで深部体温の変化を予防したり、和らげたりしています。これまで、寒い環境下での体温調節行動については多くの研究が行われてきましたが、暑い環境下での体温調節行動に関する報告は限られていました。
さらに、木漏れ日が差し込む半日陰を休息場所の選択肢として扱った内温動物の体温調節研究は、これまでありませんでした。
本研究では、休息場所を日向・日陰・半日陰の 3 つに分け、それぞれの利用に気温と湿度がどのように影響しているのかを調べました。その結果、高温条件下では、湿度が休息場所の選択に影響し、ニホンザルは高温で乾燥した状況では半日陰を、高温で湿った状況では日陰を選択していました。この結果は、半日陰が単なる中間的な場所ではなく、体温調節において重要な役割を果たす休息場所であることを示しています。
本研究成果は 2026 年 5 月 19 日に、国際学術誌「Primates」にオンライン掲載されました。
1.背景
地球規模での気候変動は、野生動物が暮らす熱環境に直接的な影響を及ぼします。そのため近年、動物が熱ストレスにどのように対応しているのかに関心が高まっています。特に寿命の長い動物では、遺伝的な適応に長い年月がかかるため、個体レベルの行動によって熱ストレスにどのように柔軟に対応しているのかを理解することが重要です。
日向や日陰を選ぶ行動は、多くの動物でみられる体温調節行動です、一方で、日向と日陰の中間的な日照環境である半日陰については、トカゲで体温を適切な範囲に保つために利用されている可能性が示されているものの、内温動物では、その体温調節上の意義は謎に包まれていました。また、湿度は高温時の熱ストレスに影響することがヒトや一部の霊長類で知られていますが、動物の体温調節行動を考えるうえで、湿度の効果は十分に理解されてきませんでした。
そこで本研究では、屋久島の野生ニホンザルを対象に、体温調節戦略としての日向・日陰・半日陰の利用に、気温と湿度がどのように影響するのかを検証しました。これまでのニホンザルの体温調節研究の多くは、個体同士が寄り集まって暖をとる「サル団子」など、寒さへの対策に注目していました。そのため、暑い環境下での日陰や半日陰の選択に、気温や湿度がどのように関わるのかは謎でした。
2.研究手法・成果
本研究では、屋久島に生息する野生ニホンザル 1 群を対象に、約 1 年間にわたって継続的な行動観察を行いました。個体追跡による観察対象は、4 歳以上のメス 24 頭です。晴天時に、視界内で日向・日陰・半日陰のいずれも利用可能な状況において、追跡個体が休息し始めた場所を記録しました。さらに観察中に携帯していた環境計でその時の気温・湿度を測定し、各休息場所の選択との関連を分析しました。
その結果、約 22℃以上の高温条件下では、湿度が休息場所の選択に影響していることがわかりました。ニホンザルは、湿度 60%以下の乾燥した状況では半日陰を、湿度 80%以上の湿った状況では日陰を選択していました。一方、日向の利用は湿度に関わらず、気温が低いほど増加し、約 18℃以下では日向を選択する傾向がみられました。このように、ニホンザルは気温と湿度に応じて、休息場所を柔軟に選択していることが明らかになりました。
本研究の重要な点は、第一に、高温時には湿度がニホンザルの休息場所選択に影響することを示した点です。
第二に、高温乾燥時に半日陰が選択されたことから、半日陰が単なる中間的な場所ではなく、体温調節上、無視できない役割をもつ休息場所であることを示した点です。
3.波及効果、今後の予定
多くの哺乳類は、体温調節に十分有効な発汗能力をもっていません。霊長類の中でも、こうした発汗能力が発達しているのは、ヒトや類人猿、ニホンザルなどのサルを含む狭鼻亜目にほぼ限られます。そのため、発汗による体温調節が難しい動物では、暑い環境下において、日陰で休んで体に入る熱を減らしたり、イヌのようにハアハアと呼吸することで口から熱を逃がしたりする行動が特に重要になると考えられます。こうした行動を明らかにすることは、哺乳類の体温調節を理解するうえで重要です。一部の内温動物では、高温乾燥時に舌を出したり、体表面に唾液をつけたりするなど、気化熱を利用した体温調節行動が報告されています。本研究でみられた高温乾燥時の半日陰選択についても、日射をある程度避けながら、体表面からの放熱を促す行動として解釈できる可能性があります。もしそうであるならば、発汗による体温調節が難しい哺乳類にとっても、半日陰は暑さを凌ぐための重要な休息場所である可能性があります。ただし、本研究では体温や体表面からの蒸発による放熱量を直接測定していないため、この解釈については今後、日射量の影響や体毛による断熱効果などを含めて検証する必要があります。
また、本研究では 35℃を超えるような高温条件での観察例が少なかったため、より厳しい暑熱環境で同じような休息場所選択がみられるかは未解明です。本研究では検討できなかった風速・降水量・日射量など、体温調節に関わる他の環境指標も組み合わせて分析することで、霊長類や他の内温動物が暑さにどのように対応しているのか、より深く理解できると期待されます。今後、半日陰利用が他の動物種や生息環境でも一般的にみられるのか、また暑さ対策としてどの程度有効なのか、行動学と生理学の両面から検証していく必要があります。
4.研究プロジェクトについて
本研究は、屋久島森林生態系保全センターと鹿児島県自然保護課からの調査許可、日本学術振興会科学研究費助成事業(21J14923、17H02436、17KT0058)、京都大学野生動物研究センター共同利用・共同研究拠点事業、京都大学霊長類・ワイルドサイエンス・リーディング大学院(PWS)に支援されました。
<研究者のコメント>
「半日陰」という言葉に馴染みがなくても、木漏れ日の差す場所で休んだ経験がある方は多いのではないでしょうか。半日陰は身近な休息場所ですが、動物の体温調節研究ではこれまでほとんど注目されてきませんでした。今回の発見は、調査中に「日向でも日陰でもないが、無視できない休息場所がありそう」と感じたことが出発点であり、内温動物における半日陰の体温調節的意義が「日の目を見る」ことになりました。調査中に感じた疑問を研究として形にし、論文にまとめることは、フィールドワークの醍醐味の一つだと思います。本研究には多くの困難も伴いましたが、今後も調査地で得た着想を大切にしながら、研究を続けていきたいと思います。(田伏良幸)
<論文タイトルと著者>
タイトル:Behavioral thermoregulation in relation to humidity in wild Japanese macaques (Macaca fuscata yakui): the significance of semi-shade
(野生ニホンザルでの湿度と関連した行動性体温調節:半日陰の意義)
著 者:Yoshiyuki Tabuse
掲 載 誌:Primates
DOI:10.1007/s10329-026-01261-4
https://rdcu.be/fjrJP
▼詳細はこちら
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2026-05-19-5










