寄稿者:兵庫県立大学
《ニュース概要》
⚫ 研究の概要
兵庫県立大学と兵庫県立はりま姫路総合医療センターの共同研究チームは、腹部 X 線画像から腸内の「便」と「ガス」の量を AI が自動で測定する新たな技術を開発しました。これまで、便秘のタイプを診断するには専門医の経験に頼る部分が大きく、診断結果にばらつきが生じることもありました。本研究では、AI を活用することで、誰でも安定した精度で便秘の種類を判別できる世界初の画像診断システムを実現しました。今後、より適切な治療選択や患者の負担軽減につながることが期待されます。
⚫ 研究の背景
便秘は世界人口の約 15%が悩む身近な症状であり、高齢者や女性に特に多く見られます。便秘には複数のタイプがあり、それぞれに合った治療が必要です。しかし、腹部 X 線画像からタイプを正確に見極めるには、高度な専門知識が必要であり、経験の浅い医師には難しい場面もありました。
中でも、便やガスの「量」や「たまり方」は便秘タイプと密接に関係しているものの、従来はそれを客観的かつ定量的に測定する方法がなく、診断のばらつきの原因となっていました。
⚫ 研究成果の内容
本研究では、専門医が正確にアノテーション(便やガスの位置のラベリング)した X 線画像を深層学習モデル「U-Net」に学習させ、便とガスの領域を AI が自動で識別・定量化する技術を開発しました。
加えて、腸内ガスの量を示す「GVS(Gas Volume Score)」、便の量を示す「SVS(StoolVolume Score)」という新たな数値指標を提案しました。AI による判定結果と医師による手作業との比較では、GVS で相関係数 0.947、SVS で 0.840 という非常に高い一致率が確認されました。
さらに、複数の AI モデルを組み合わせる「アンサンブル学習」を導入することで、特に便領域の識別精度が向上。X 線画像 1 枚から便秘タイプを推定するための参考情報を得るという、新しい診断アプローチが可能になりました。
上図:
白:正しく抽出,赤:未抽出,青:誤抽出
下図:
アンサンブル深層学習領域抽出法
⚫ 今後の展望
この技術は、診断の標準化と医療の均てん化に寄与し、経験の浅い医師でも精度の高い診断が行えるようになると期待されます。将来的には、炎症性腸疾患(IBD)や神経性腸障害など、他の消化器系疾患の評価・診断への応用も視野に入れています。今後は、多施設による検証や、3 次元 CT 画像との連携によるさらなる精度向上にも取り組む予定です。
⚫ 研究成果の公表
本研究の成果は、2026 年 3 月 17 日にネイチャー・リサーチ社の国際学術雑誌「SoftComputing」にオンライン(open access)掲載されました。
タイトル: Automated Quantification of Chronic Constipation in X-rays using U-Net
著者: Naoya Takashima, Daisuke Fujita, Tsuyoshi Sanuki, Yoshikazu Kinoshita, and Syoji Kobashi
高島直哉*1, 藤田大輔*1,2, 佐貫毅*3, 木下芳一*1,3, 小橋 昌司*1,2
*1兵庫県立大学大学院工学研究科
*2兵庫県立大学先端医療工学研究所
*3兵庫県立はりま姫路総合医療センター
⚫ 用語説明
便秘(Chronic Constipation):
排便の回数が少ない、または排便に困難を伴う状態。慢性的な便秘は生活の質(QOL)を大きく低下させることがあります。
X 線画像(Abdominal X-ray):
放射線を使って体の内部を写す画像。腹部の X 線画像では、腸内の便やガスの状態を見ることができます。
U-Net:
医療画像の処理によく使われる AI(深層学習)の手法のひとつで、画像の中の特定の部分(たとえば便やガス)を正確に切り出すことができます。
アノテーション:
AI に学習させるため、専門家が画像の中で「ここが便」「ここがガス」などの正解ラベルをつける作業のこと。
GVS(Gas Volume Score):
腹部 X 線画像から推定される腸内ガスの量を示す数値指標。
SVS(Stool Volume Score):
腹部 X 線画像から推定される便の量を示す数値指標。世界初の指標として本研究で提案されました。
アンサンブル学習:
複数のAIモデルを組み合わせて、1つのモデルでは出せない高精度な結果を得る手法です。
DICE 係数:
AI が出した領域と専門家が指定した領域がどれだけ一致しているかを示す指標。1.0 に近いほど高精度。











