寄稿者:大阪大学
《ニュース概要》
■研究成果のポイント
・免疫性血小板減少症 (ITP) ※1において、補体※2活性化が関与する一群を世界で初めて見出し、それを実臨床で簡便に検出できる可能性を秘めた検査法を明らかに。
・ITP患者の病態は多様で、血小板が破壊される原因や機序は明らかになっていなかったが、ITP患者血小板の表面に結合した分子種を解析した結果、3 種の異なった血小板破壊機序を発見。
・補体活性化制御薬が有効な患者を簡便に診断できる可能性が示され、難治性 ITP 患者に対して、より良い治療を選択する一助となることに期待。
■概要
大阪大学免疫学フロンティア研究センター (WPI-IFReC)・大阪大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学 の保仙直毅教授、中田継一(大学院生)、柏木浩和招へい教授らの研究グループは、中外製薬株式会社の大浪一生氏、松下浩明氏(IFReC、大阪大学医学系研究科兼務)らとの共同研究で、免疫性血小板減少症(ITP)において補体活性化が関与する一群を世界で初めて見出し、それを実臨床で簡便に検出できる可能性がある検査法を明らかにしました。
ITP は抗血小板自己抗体により血小板減少をきたす自己免疫疾患であり厚労省から難病に指定されている疾患です。近年、その治療には大きな進展がみられていますが、従来の治療に無効である症例が存在し、そのような難治例における血小板減少のメカニズムの解明および治療法の開発が課題でした。
今回、研究グループは ITP 患者 40名の検体を用い、フローサイトメトリーにより ITP 患者の血小板表面における補体沈着のパターンが 3群に分類されることを明らかにしました。特に補体活性化が進行した III 群においては IgG 自己抗体だけでなく IgM 自己抗体が関与している可能性があること、血小板破壊が著明であり幼若な血小板の割合が増加していること、さらに従来の治療に対する反応が悪い例が多いことを明らかにしました。
現在、補体活性化を制御する薬剤の開発が進んでおり、難治性 ITP 患者に対して、より良い治療を選択する一助となることが期待されます。
■研究の背景
ITP は血小板に結合した IgG 自己抗体を介して、主に脾臓において血小板が貪食・破壊されることにより血小板が減少する自己免疫疾患です。皮下出血(紫斑)を中心とする出血や止血困難をきたし、従来、特発性血小板減少性紫斑病とよばれてきた疾患です。小児、若い女性および高齢者に好発しますが、特に成人においては慢性化し長期にわたる治療を必要とする場合が多く、難病に指定されています。
治療としては IgG 抗体の産生を抑制する副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤や脾臓摘出術が行われてきましたが、近年、血小板の産生を刺激するトロンボポエチン受容体作動薬の有効性が示され、大いに進展がみられています。しかし、これらの治療が無効である症例が一定数存在し、そのような症例における血小板減少のメカニズムの解明および治療法の開発が課題でした。
■研究の内容
研究グループは、ITP 患者 40 名の血液を採取し、血小板表面に結合した補体成分(C1q, C3d,C4d)および IgG、 IgM 抗体を、フローサイトメトリーを用いて定量しました。その結果、血小板に補体成分の沈着を認めない I 群、補体古典的経路の開始因子である C1q の沈着のみを認める II 群、および補体活性化の進行を意味する C3d および C4d の沈着を認めるIII群の3つのグループに分類できました。IgM 抗体は主に III 群、IgG 抗体は II 群および III 群において認めました。また、第一選択薬である副腎皮質ステロイドが無効である症例が I 群に比べ特に III 群に多く認められました。
ITPにおいては血小板破壊の亢進に伴い血小板寿命が短縮し、若い血小板の割合(幼若血小板比率※3)が増加します。幼若血小板比率は自動血球分析装置にて簡便かつ迅速に測定することができます。血小板における補体沈着は幼若血小板比率の増加と相関を認めたことから、特に III 群における血小板減少に補体活性化に伴う血小板破壊の亢進が関与しており、従来の治療に対する抵抗性と関連している可能性が示されました。
・柏木招へい教授のコメント
ITP患者の一部には大変治療が難しい方がおられ、有効な治療法を見つけたいという想いで研究を続けてきました。今回、このような従来の治療では効果が不十分な方の血小板破壊メカニズムを明らかにし、より良い治療法の選択を提案できたことは、非常に意義深いことと考えています。本研究は、多くの共同研究者の先生方のご支援とご協力があって初めて実現できました。この場をお借りして深く感謝申し上げます。
■本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究により ITP 患者の中で補体活性化が強く関与する一群が存在し、治療抵抗性と関連している可能性があること、また幼若血小板比率測定という非常に簡便な方法でそのような患者を選別できる可能性があることが示されました。近年、難治性 ITP に対する新薬の開発が進んでおり、補体活性化阻害薬もその一つです。今回の研究は、難治性 ITP 患者に対して、より良い治療を選択する一助となることが期待されます。
■掲載論文・雑誌
掲載紙: Blood (2026 年 3 月 31 日オンライン版)
タイトル: “Complement activation profile in adult primary immune thrombocytopenia”
著者名: Keiichi Nakata*, Ichio Onami*, Hisashi Kato, Satoru Kosugi, YoshiakiTomiyama, Hiroaki Matsushita, Atsuo Kurata, Kazuki Sato, KasumiTakahashi, Fumie Sawamura, Ken Ohmine, Shuichi Ohtomo, NaokiHosen, Hirokazu Kashiwagi‡ (*: equally contributed; ‡: correspondence)
DOI: https://doi.org/10.1182/blood.2025032255
・特記事項
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(22K08476)、中外製薬の支援を受けて行われました。
■用語説明
※1 免疫性血小板減少症 (ITP)
本来、抗体は病原体から身体を守るものであるが、ITP においては免疫システムが誤作動し、自分自身の正常な血小板を「異物」とみなして攻撃する抗体(抗血小板自己抗体)が産生される。自己抗体の結合した血小板は主に脾臓の貪食細胞(マクロファージ)で貪食されることにより、血小板減少が生じると考えられている。従来、特発性血小板減少性紫斑病とよばれていた疾患であり、厚労省より難病に指定されている。5 歳以下の小児、若い女性、高齢者に好発し、小児では一過性で完治することが多いが、成人では慢性化し長期にわたる治療が必要となる場合が多い。
※2 補体
細菌、ウイルスなどの病原体に対する生体防御機構のひとつ。複数のたんぱく質が連鎖的に反応(カスケード)することにより活性化される。抗体や自然免疫と協力して病原体の細胞膜に穴をあけ破壊したり、病原体の表面に結合し好中球やマクロファージの貪食を促進する。一方で過剰な補体の活性化や機能不全と自己免疫疾患との関連が知られている。
※3 幼若血小板比率
骨髄の巨核球から放出された直後の未熟な血小板を幼若血小板とよび、全血小板中の幼若血小板の割合を幼若血小板比率とよぶ。ITP では血小板破壊が亢進し血小板寿命が短縮しているため幼若血小板比率が増加する。また幼若血小板の絶対数は骨髄における血小板産生能の指標となる。











