寄稿者:岡山大学
《ニュース概要》
◆発表のポイント
・ニワトリの筋肉におけるタンパク質分解レベルが、熟成後のむね肉のうま味成分(遊離グルタミン酸)の蓄積に関与することが分かりました。
・タンパク質分解酵素である Calpain11 が、熟成後のむね肉中遊離グルタミン酸の蓄積に貢献する可能性が示されました。
・熟成後にむね肉中のうま味が蓄積するニワトリでは、特定の低分子筋原線維タンパク質のバンドが顕著に現れることが明らかになりました。
岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域(農)の勝俣沙智助教(特任)と鹿児島大学学術研究院農水産獣医学域の井尻大地准教授の研究グループは、ニワトリの筋肉におけるタンパク質分解レベルと、熟成 1)後のむね肉のうま味成分(遊離グルタミン酸)含量との関係を明らかにしました。食鳥処理場では、衛生管理のために、ブロイラーを絶食する必要があります。この絶食は、ニワトリの筋肉におけるタンパク質の分解を促進することが知られています。これまでの私たちの研究では、筋肉中のタンパク質分解が進むと、食鳥処理後に熟成したむね肉中の遊離グルタミン酸含量が増加することが分かりました 2)。
本研究では、筋肉中のタンパク質の分解が進み、熟成後のむね肉の遊離グルタミン酸含量が増加したニワトリにおいて、むね肉中のタンパク質分解酵素(Calpain 11)の遺伝子発現量が上昇することを明らかにしました。また、熟成後のむね肉中の遊離グルタミン酸含量は、電気泳動で検出された約 12–15 kDa の未知の筋原線維タンパク質のバンド強度とも関連していました。
これらの結果から、むね肉中の遊離グルタミン酸の蓄積には、特定の筋原線維タンパク質の分解と、生体内から熟成後にかけてはたらく可能性がある Calpain 11 が関与していることが示されました。この研究成果は、2026 年 2 月 11 日に学術誌「Poultry Science」に掲載されました。
◆研究者からのひとこと
勝俣助教(特任)
本研究では、ニワトリの筋肉で起こるタンパク質分解が、熟成後のむね肉のうま味成分の蓄積に関与することを示し、そのメカニズムについて調査しました。鹿児島大学の井尻先生をはじめ、共同研究者の皆さまに大変お世話になりました。実験前後にみんなで食べるご飯の時間も大切なひとときでした。心より感謝しています。
■発表内容
・現状
食鳥処理場では、消化管内容物による汚染を防ぐため、食鳥処理前に約 16 時間、ニワトリを絶食させる必要があります。しかし、絶食は生体内のタンパク質分解経路(プロテアソーム、カテプシン、カルパインなど)を介して、食鳥処理前の筋肉のタンパク質分解を促進することが知られています。私たちのこれまでの研究では、絶食時間が長くなるほど、食鳥処理前の筋タンパク質分解レベルが上昇し、その分解レベルが熟成後のむね肉中のうま味成分(遊離グルタミン酸)含量や鶏肉スープのうま味・コク値と関連することを明らかにしました。一方、食鳥処理直後のむね肉中の遊離グルタミン酸含量は増加しなかったことから、食鳥処理前の筋肉のタンパク質分解にともなう遊離グルタミン酸の増加は、熟成期間にのみ起こる可能性が示されました 2)。しかし、そのメカニズムや遊離グルタミン酸含量の増加に貢献する酵素については、明らかではありませんでした。
・研究成果の内容
本研究では、絶食時間を慣行の 16 時間に統一して実験を行いました。その結果、絶食時間を統一しても、筋肉中のタンパク質分解レベルが高いニワトリでは、熟成中に増加する遊離グルタミン酸含量が多くなることが明らかになりました。さらに、筋肉中のタンパク質分解レベルが上昇すると、食鳥処理直後のむね肉においてプロテアソーム系およびカルパイン系(Calpain 11)の mRNA発現量が増加しました。また、熟成後のむね肉中の遊離グルタミン酸含量は、ATP 非依存性のカルパイン系(Calpain 11 および Calpain2)やカテプシン系(Cathepsin L-like、H)と関連していましたが、プロテアソーム系との関連は見られませんでした。これらの結果から、食鳥処理前に生じる筋肉のタンパク質分解には主にプロテアソーム系が関与する一方、Calpain 11 は食鳥処理前から熟成中にかけて、むね肉中の遊離グルタミン酸の蓄積に関与している可能性が示されました(上図:図 1)。
さらに、熟成前後のむね肉を用いた電気泳動解析の結果、約 12、約 13、約 15 kDa に位置する 3つの未知の筋原線維タンパク質のバンド強度は熟成前後で変化し、その変化量は熟成後の遊離グルタミン酸含量やうま味、Calpain 11 および Calpain 2、Cathepsin L-like および Cathepsin H の mRNA発現量、食鳥処理前の筋タンパク質分解レベルと関連していました。以上の結果から、熟成中の遊離グルタミン酸の蓄積には、特定の筋原線維タンパク質の分解が関与している可能性が示されました。
・社会的な意義
本研究は、鶏肉のうま味形成に関与する分子メカニズムの理解を深めるものであり、家畜が生きている間の生理状態が食肉品質に影響することを示しました。今後、飼育管理や食鳥処理条件の最適化、ならびに鶏肉の食味向上に向けた研究の発展に貢献することが期待されます。
■論文情報
論 文 名: Individual pre-slaughter muscle proteolysis levels correlated with postmortem taste-relatedamino acid concentrations in broiler chickens
掲 載 誌: Poultry Science
著 者: Sachi Katsumata, Minori Egawa, Koki Yoshino, Ayumi Katafuchi, Saki Shimamoto, AkiraOhtsuka, Daichi Ijiri
D O I: 10.1016/j.psj.2026.106553
U R L: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S003257912600180X?via%3Dihub
■研究資金
本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)科学研究費(22K20616 および JP23K14068)の支援を受けて実施しました。
■補足・用語説明
1)食鳥処理後の死後硬直が解かれ、味や香り、肉の色が十分に発現しておいしくなること
2)Poultry Science, Volume 103, Issue 2, February 2024, 103307. doi: 10.1016/j.psj.2023.103307











