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2026-03-09

ハイパーサーミアの抗腫瘍効果を大幅に向上〜新規ハイパーサーミア増感剤の開発に成功〜

寄稿者:岡山大学

《ニュース概要》
◆発表のポイント
・熱ストレスにより形成される SAFB 顆粒※1)の形成を抑制する化合物を開発しました。
・動物実験において、本化合物を用いることで、がん治療法の 1 つであるハイパーサーミア※2)の抗腫瘍効果が増強されました。
・研究開発が進むことで、新たなハイパーサーミア増感剤※3)の開発につながることが期待されます。

岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科の古谷優治大学院生、嶋崎菜月大学院生、山田莉瑚大学院生、学術研究院ヘルスシステム統合科学学域の大槻高史教授、渡邉和則准教授の研究グループは、熱ストレスによって細胞の核内で形成される SAFB 顆粒の形成を抑制する化合物を開発しました。また、動物実験において、本化合物とがん治療法の 1 つであるハイパーサーミアを併用することで、抗腫瘍効果が有意に増強されることを明らかにしました。この研究成果は、2026年 2 月 18 日にアメリカの国際学術誌「Journal of medicinal chemistry」でオンライン公開されました。

ハイパーサーミアは抗がん剤などの化学療法と併用することで治療効果が高まりますが、抗がん剤に伴う副作用や十分な治療効果が得られない場合があることが課題となっています。本研究で開発した SAFB 顆粒形成抑制剤は、抗がん剤とは異なる作用機構によりハイパーサーミアの効果を高める可能性があり、治療効果の向上と副作用軽減が期待されます。今後の研究開発により、新たなハイパーサーミア増感剤としての応用、発展が期待されます。

◆研究者からのひとこと
担がんマウスを用いた実験は初めてだったため不安が大きかったですが、このような成果につながり大変うれしく思います。本研究の成果を糧に、さらなる研究の発展・実用化を目指します。共同研究も大歓迎です。(古谷大学院生 渡邉准教授)

■発表内容
・現状
がん治療法の 1 つであるハイパーサーミアは、腫瘍周辺を 40 度以上に加温することでがん細胞を死滅させる低侵襲な治療法です。また、ハイパーサーミアによる治療効果を高めるために、抗がん剤などの化学療法との併用療法が用いられています。しかし、化学療法に伴う副作用や、がん細胞がもつ熱抵抗機構※4)により治療効果が限定的であるなどの課題があります。
私たちはこれまでに、新たな熱抵抗機構の 1 つとして、熱ストレスにより核内で形成される SAFB顆粒が関与していることを明らかにしてきました。そのため、SAFB 顆粒形成抑制剤は、ハイパーサーミアの治療効果を高めるハイパーサーミア増感剤候補として考えられます。しかし、これまでに用いられてきた TRPV1 阻害剤※5)では、SAFB 顆粒形成の抑制効果が十分でなく、さらに細胞毒性を示すため、新規 SAFB 顆粒形成阻害剤の探索が課題となっていました。

・研究成果の内容
本研究ではまず、2000 種類の化合物を含んだ化合物ライブラリーを用いて、SAFB 顆粒形成を抑制する化合物を探索した結果、SAFB 顆粒形成抑制剤を同定しました(図 1)。また、この抑制剤を用いることで、複数の腫瘍由来がん細胞に対して、ハイパーサーミアによる細胞死誘導効率が向上することも明らかにしました。
次に、動物実験において SAFB 顆粒形成抑制剤とハイパーサーミアの併用効果を検証したところ、併用することで最も高い抗腫瘍効果が認められました。これらの結果から、SAFB 顆粒形成抑制剤は新たな作用機序を有するハイパーサーミア増感剤候補であることを示しました(図 2)。

上図:図 1 SAFB 顆粒形成抑制剤による SAFB 顆粒の形成抑制
免疫染色により核(青)と SAFB(黄色)の染色を行いました。抑制剤を溶かしている溶媒よりも SAFB 顆粒形成抑制剤の方が SAFB顆粒(矢印)の数が少ない。

下図:図 2 SAFB 顆粒形成阻害剤とハイパーサーミアによる抗腫瘍機構

・社会的な意義
ハイパーサーミアは腹部や胸部、頭頸部など、首から下のさまざまな部位に適応可能な治療法です。本研究で開発した SAFB 顆粒形成抑制剤とハイパーサーミアを併用することで、幅広いがん細胞に対して細胞死誘導効率が向上し、動物実験においても高い抗腫瘍効果を発揮しました。
これらの結果から、SAFB 顆粒形成抑制剤は多様ながんに対するハイパーサーミアの治療効果を高める新規ハイパーサーミア増感剤として、今後の臨床応用への発展が期待されます。

■論文情報
論文名:Discovery of Thermal Sensitizers That Inhibit Heat-Induced SAFB Granule Formation
掲載誌:Journal of Medicinal Chemistry
著者:Yuji Furutani, Natsuki Shimasaki, Riko Yamada, Takashi Ohtsuki, Kazunori Watanabe
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.5c03361
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jmedchem.5c03361

■研究資金
本研究は、公益財団法人ウエスコ学術振興財団、公益財団法人天野工業技術研究所の支援を受けて実施しました。また、化合物ライブラリーに関しては国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)生命科学・創薬研究支援基盤事業創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)の課題番号 JP21am0101084 の支援を受けました。さらに、岡山大学インパクトの高い国際的な学術誌への APC 支援を受けています。

■補足・用語説明
1)SAFB 顆粒:
熱ストレスに応答して細胞の核内に形成される Scaffold Attachment Factor B (SAFB)からなる顆粒(核内輝点)のことです。

2)ハイパーサーミア:
がん細胞が熱ストレス(40 度以上)に弱い特性を利用して、腫瘍を加温することで治療を行う低侵襲ながん治療法です。より高い治療効果を得るために、放射線療法や化学療法と併用されることも多くあります。

3)温熱増感剤:
ハイパーサーミアによる治療効果を高める目的で用いられる薬剤の総称です。抗がん剤などが該当します。

4)熱抵抗機構:
細胞が熱ストレスに曝されると、タンパク質合成の抑制や熱ショックタンパク質の発現上昇、SAFB 顆粒の形成などの応答が起こります。これらの仕組みにより細胞の損傷が軽減され、生存しやすくなる現象を指します。

5)TRPV1 阻害剤:
Transient receptor potential vanilloid 1 (TRPV1) は、熱やカプサイシンなどの刺激を感知する細胞膜に存在するイオンチャネル型タンパク質です。TRPV1 阻害剤は、その活性を抑制することで熱刺激や痛みなどの感知を低減する作用を持っています。