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2026-01-29

鳴き声の順序に応じた行動変化:昆虫で初実証 ツクツクボウシの「オーシンツクツク」と「ツクリヨーシ」の発音順序に対するオスの応答変化

寄稿者:九州大学

《ニュース概要》
■ポイント
・鳴き声の構成要素の順序が聞き手の応答を変化させる事例は昆虫では知られていなかった。
・ツクツクボウシのオスに「オーシンツクツク」と「ツクリヨーシ」の順序を入れ替えた音声を聞かせた際、オスの”合の手”による応答が減少すること、またオスの応答のタイミングが異なることを初めて見出した。
・今後、オスの合の手の回数やタイミングがメスの行動にどう影響するかを調べることで、本種における音声コミュニケーションの適応的意義の解明に迫っていく。

■概要
  動物の中には複数の音声パターンを組み合わせた複雑な鳴き声を発するものがおり、哺乳類や鳥類などではよく研究されていました。一方でカエルや昆虫など、オスのみが鳴く動物での研究例は少なく、特に昆虫では鳴き声を構成する異なる領域(パート)の演奏順序の違いが聞き手の応答に影響する例は知られていませんでした。

 九州大学大学院システム生命科学府 博士学生の児玉建さん(研究当時の所属)、および九州大学大学院理学研究院生物科学部門の立田晴記教授らの研究グループは、ツクツクボウシのオスが発する鳴き声のうち、「オーシンツクツク」と聞こえるパートと「ツクリヨーシ」と聞こえるパートの再生順序を入れ替えた音声を作成し、捕獲したオスに聞かせる実験を行いました。ツクツクボウシのオスが同種オスの鳴き声に合わせて「ギーッ」と鳴く”合の手”と呼ばれる発音の頻度を比較したところ、通常の順序と比べて逆の順序の鳴き声に対する合の手の回数は大きく減少しました。また合の手が発せられるタイミングを比較したところ、通常の順序の音声で「ツクリヨーシ」と聞こえるパートが再生される際に最も多くの合の手が発せられました。

 本研究では、鳴き声における異なるパートの再生順序を入れ替えることで、聞き手であるオスの応答が変化する現象を、昆虫類で初めて見いだしました。これはツクツクボウシが他個体が発する鳴き声の順序に基づき、自身が合の手を発するタイミングを柔軟に調整していることを意味しています。今後は本種の音声コミュニケーションの実態解明のため、オスの合の手が持つ繁殖上の意義についてさらなる研究が必要です。

 本研究の成果は、ドイツ動物行動学会(Ethologische Gesellschaft)が発行する国際誌 「Ethology」に 2026 年 1 月 14 日(水)(日本時間)にオンライン掲載されました。

・研究者からひとこと:
 セミは日本人にとって馴染み深い昆虫ですが、実はその生態はほとんど研究されておらず、謎多き生き物です。ツクツクボウシも日本ではありふれたセミですが、その鳴き声は世界的にも類を見ないほどに複雑で個性的です。学部生の頃からずっとツクツクボウシの研究をしてきましたが、未だに毎年新しい発見があります。次のお盆が過ぎる頃、ぜひこの美しくも奇妙な鳴き声に耳を傾けてみてください。(児玉 建)

【研究の背景と経緯】
 鳴き声を発する動物の中には、複数の音声パターンを組み合わせた複雑な鳴き声を発するものがいます。例えば鳥類のシジュウカラでは、複数の鳴き声パターンの組み合わせや順序によって異なる情報を伝達するという文法的な用法も知られています。一方で、主にオスのみが鳴き声を発してメスに求愛するカエルや昆虫などの動物においては、このような複雑な鳴き声についての研究は多くありません。特に昆虫においては、複雑な鳴き声の構成要素の順序が聞き手の応答を変化させるという事例はこれまで知られていませんでした。

 セミの一種であるツクツクボウシのオスは、昆虫の中でも極めて複雑な鳴き声を発します。その鳴き声は、「オーシンツクツク」と聞こえる第一段階 (前半部) から、鳴き終わる直前に「ツクリヨーシ」と聞こえる第二段階 (後半部) へと途中で変化するという、極めて珍しい特性を持っています。またオスが鳴いている時、近くにいる別のオスが「ギーッ」と音声を発する”合の手”という行動が知られています。

 研究チームはツクツクボウシのオスを用いたこれまでの研究で、通常の鳴き声と前半部のみの音声を聞かせた時に発せられる合の手に対し、後半部のみの音声を聞かせた時に発せられる合の手の回数が大きく減少することを見出しました。このことから、前半部の「オーシンツクツク」という音声がオスの合の手を促進し、後半部の「ツクリヨーシ」という音声はそうではないと考えました。その後、改めて野外でツクツクボウシの鳴き交わしを観察する際、オスの鳴き声が後半部にさしかかった時にも合の手が頻繁に発せられている様子が観察されました。

 そこで研究チームは、鳴き声を構成する 2 つのパートの演奏順序や継続時間の変化に合わせて、聞き手の行動が変化するか否かを検証しました。

【研究の内容と成果】
 研究チームはまずツクツクボウシのオスを捕獲し、その鳴き声を録音しました。次に、録音したオスの鳴き声の音声を編集し、主要部の前半部(オーシンツクツク)と後半部(ツクリヨーシ)の再生順序を入れ替えた鳴き声を作成しました(図1)。前半部と比べて後半部の継続時間はとても短いため(図1:音声①,②)、前半部・後半部それぞれに対する応答の回数を直接比較するのは困難です。そこで、後半部の長さが前半部の長さと同程度になるように後半部の繰り返しを増やした鳴き声(図1:音声③)と、鳴き声の前半部と後半部を入れ替えた鳴き声も作成しました(図1:音声④)

 これら4つの鳴き声をスピーカーでそれぞれ再生し、捕獲したオスのツクツクボウシに聞かせるプレイバック実験(※1)を行いました。この実験により、オスがそれぞれの鳴き声に対して発する合の手による応答の回数と、合の手が発せられるタイミングを比較しました。

 その結果、ツクツクボウシのオスは、通常順の鳴き声に対して、より多くの合の手による応答を示し、逆順の鳴き声に対してはより少ない応答を示しました(図2)。今回の実験では全ての実験音声が「オーシンツクツク」と「ツクリヨーシ」の両方を含んでいたにも関わらず、その再生順序を入れ替えるとオスの合の手が大幅に減少したことから、鳴き声における異なるパートの再生順序を受け手が聞き分け、自身の行動を変えていることが示されました。

 また実験中に合の手が発せられたタイミング(合の手が発せられた際に再生されていたパート)を見ると、通常順の鳴き声で最も割合が高かったのは後半部でした(図2)。特に後半部を延長していない通常の鳴き声において、後半部は前半部と比較して継続時間が非常に短いにも関わらず、半数以上の合の手が後半部が再生された際に発せられていました。一方で、逆順の音声では前半部・後半部に対する合の手の回数は大きく減少し、終奏部分の再生時に合の手の増加が見られました(図2)。

・画像解説
上図:図1 ツクツクボウシのオスの鳴き声を用いて実験用に作成した音声
下図:図2 プレイバック実験の結果

【今後の展開】
 本研究ではツクツクボウシを対象に、鳴き声を構成する 2 つのパートの再生順序に応じて、聞き手の応答が変化する現象を昆虫類で初めて発見しました。また通常順の鳴き声を聞かせた際、演奏時間の長さに依らず、オスの合の手が後半部(ツクリヨーシ)に集中することを明らかにしました。

 ツクツクボウシのオスが発する鳴き声は、他種のセミと同様に、繁殖のためのメスの誘引・求愛に用いられると考えられています。オスによる合の手の適応的な意義は未解明ですが、メスとの交配の機会を巡ってのオス同士の競争や協力に関係するものであると言われています。合の手が同性間のコミュニケーションにおける意義、また合の手のタイミングや回数がメスの行動に与える影響について今後解明する必要があります。

【用語解説】
(※1) プレイバック実験
説明・・・音声などの信号をスピーカーなどによって人工的に再生し、動物の行動の変化を観察する実験。

【謝辞】
本研究は JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2136)および JSPS 科研費(23K23948)の助成を受けたものです。

【論文情報】
掲載誌:Ethology
タイトル:Ordering Matters: Combinatorial Song Structure Governs Male Responses in a Cicada Species
著者名:Takeru Kodama, Haruki Tatsuta
D O I :10.1111/eth.70051