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2025-12-19

自然免疫応答を制御する一本鎖核酸分解メカニズムを解明

寄稿者:東京大学

《ニュース概要》
■発表のポイント
・リソソームにおいて一本鎖核酸を分解する酵素 PLD3 および PLD4 の様々な触媒状態にあるクライオ電子顕微鏡構造を解明しました。
・PLD3 および PLD4 が一本鎖核酸を末端から効率的に連続して分解する分子機構を明らかにしました。
・PLD3 や PLD4 の遺伝子多型に起因する神経変性疾患や自己免疫疾患の新たな治療法の開発に貢献することが期待されます。
 

■概要
東京大学大学院薬学系研究科の平野良憲 助教、江﨑和貴子 大学院生(研究当時)、清水敏之教授、同大学大学院新領域創成科学研究科の大戸梅治 教授、千葉大学未来粘膜ワクチン研究開発シナジー拠点の三宅健介 特任教授、佐藤亮太 特任助教らによる研究グループは、リソソームにおいて一本鎖核酸を分解するエキソヌクレアーゼ(注 1)Phospholipase D3(PLD3)、および PhospholipaseD4(PLD4)の基質が結合していないアポ構造、基質結合構造および基質切断直後の生成物結合構造をクライオ電子顕微鏡単粒子解析(注 2)の手法で決定しました。異なる基質と結合した状態の構造解析から、PLD3 は分解する基質に応じて基質結合ポケットを再構築することを発見しました。また、切断された核酸が結合ポケットから放出され、基質が再度切断される状態へ再編成される際に経る準安定状態を可視化することに成功し、PLD3 およびPLD4 が一本鎖核酸を末端から効率的に連続して分解する分子機構を明らかにしました。本研究成果は PLD3 や PLD4 の遺伝子多型に起因する神経変性疾患や炎症性疾患の新たな治療法の開発に貢献することが期待されます。

■発表内容
自然免疫誘導において、リソソームは核酸を分解するだけでなく、リガンド(注 3)を産生して Toll-like receptor(TLR)(注 4)を活性化するシグナル伝達の場として機能しています。リソソームに核酸が蓄積すると TLR が恒常的に活性化したり、核酸が細胞質へ漏出して細胞質の核酸センサーの恒常的活性化を引き起こしたりするなど、様々な病態が形成されます。PLD3、PLD4 はリソソームに局在する一本鎖 DNA または一本鎖 RNA を分解する核酸分解酵素として働き、一本鎖 DNAをリガンドとする TLR9やヌクレオシドと一本鎖 RNAをリガンドとする TLR7,TLR8シグナルを制御しています。しかしながら基質との複合体の構造が解明されておらず、基質認識機構や基質配列の嗜好性については不明でした。

本研究チームはクライオ電子顕微鏡単粒子解析の手法で、PLD3 と一本鎖 DNA 複合体の構造決定に成功しました。PLD3 の基質結合部位は狭くて深いポケットを形成しており、それに対して垂直に入り込んだ基質の一本鎖 DNA は、先端が L 字状に折れ曲がった状態で触媒部位に結合していました。これにより末端塩基が溶媒に露出することで、切断されたモノヌクレオチドが放出されやすくなっていることが明らかとなりました。基質の切断部位は触媒残基近傍に位置しており、基質がまさに切断される状態を反映した構造でした。また、チミンのみで構成されたポリ T 配列およびアデニンのみで構成されたポリ A 配列から構成される一本鎖 DNA が結合した状態ではポケットの形が変化しており、基質も 3 番目の塩基の向きが反転していることが観察されました。生化学的な解析結果によってポリ A 配列よりもポリ T 配列に対して切断活性が高いことが示され、今まで不明であった PLD3 の基質嗜好性の一端が明らかとなりました。

さらに PLD4 と基質の混合試料をクライオ電子顕微鏡単粒子解析の手法で解析した結果、基質結合構造と基質が切断された生成物結合構造(図 1B)を可視化しました。結合した基質は PLD3で観察されたような触媒残基に近接した切断に適した配置とは異なり、触媒部位とは少し離れたポケット手前に結合していました。これは切断された核酸が結合ポケットから放出され、基質が再度切断される状態へ移動している状態を反映した構造(図 1C)と考えられます。一連の構造解析によって、基質切断状態(図 1A)、切断後の生成物結合状態(図 1B)、そして基質が再切断されるように移動している状態(図 1C)を可視化して、PLD3 および PLD4 が一本鎖核酸を末端から効率的に連続して分解する分子機構を明らかにしました。(図 1)

PLD3 の遺伝子多型はパーキンソン病等の神経変性疾患と、PLD4 の遺伝子変異は全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患との関連があることから、本研究で明らかとなった PLD3 および PLD4 による核酸分解の分子機構は、PLD3 や PLD4 の遺伝子変異に起因する神経変性疾患や炎症性疾患の新たな治療法の開発に貢献することが期待されます。

■画像解説
上図:PLD3 による一本鎖 DNA の認識
下図:図 1:PLD3 および PLD4 による一本鎖核酸分解メカニズム

■発表者・研究者等情報
東京大学
・ 大学院薬学系研究科
 清水 敏之 教授
 平野 良憲 助教
 江﨑 和貴子 修士課程(研究当時)
・大学院新領域創成科学研究科
 大戸 梅治 教授

千葉大学未来粘膜ワクチン研究開発シナジー拠点
 三宅 健介 特任教授
 佐藤  亮太 特任助教 

■論文情報
雑誌名:Nature Communications
題 名: Mechanistic insights into single-stranded DNA degradation by lysosomal exonucleases PLD3 and PLD4 from structural snapshots
著者名:Yoshinori Hirano, Wakiko Ezaki, Ryota Sato, Umeharu Ohto, Kensuke Miyake,Toshiyuki Shimizu
D O I:10.1038/s41467-025-66261-2
U R L:https://www.nature.com/articles/s41467-025-66261-2

■研究助成
本研究は科研費(課題番号:JP22K06110、JP25K09523、JP22H02556、JP23K18211、JP22H05184、JP23H00366)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST(課題番号:JPMJCR21E4)、AMED 創薬等先端技術支援プラットフォーム(BINDS)(課題番号:JP21am0101115)などからの支援を受けて実施されました。

■用語解説
(注 1)エキソヌクレアーゼ
核酸(DNA や RNA)の末端から 1 塩基ずつ加水分解する酵素の総称です。酵素によって 5’末端もしくは 3’末端側のどちらかに作用します。

(注 2)クライオ電子顕微鏡単粒子解析
タンパク質や核酸などの生体高分子の立体構造を原子レベルで決定する手法の一つ。分子構造を壊さないようにガラス状の氷薄膜中に包埋した試料に、極低温(-180℃~-190℃)下で電子線を照射して透過電子の干渉像を拡大して観測します。取得した粒子の投影像をコンピューター上で分類・平均化して、多方向からの二次元投影像を統合して三次元マップを再構成します。

(注 3)リガンド
タンパク質や金属分子などの特定の標的と結合して、何らかの機能を発揮する分子の総称。生物学においては、受容体などのタンパク質に結合して何らかの生理的反応を引き起こす物質を指します。

(注 4)Toll-like receptor (TLR)
生体に侵入した病原体を感知して最初に発動する生体防御機構である自然免疫系において、病原体を感知するパターン認識受容体(pattern-recognition receptor:PRR)としての初めて同定された受容体ファミリーです。微生物の持つ共通した分子機構( pathogen-associatedmolecular pattern:PAMPS)を認識して炎症性サイトカインや I 型インターフェロン産生等を誘導します。