寄稿者:筑波大学
《ニュース概要》
視覚情報と運動とを結びつけて覚える「連合学習」が行われる神経メカニズムとして、小脳の持続的な視覚応答が増強されることによって、行動の目的に関連した情報が増幅され、視覚刺激と行動の対応関係を区別しやすくしていることが分かりました。
「車の運転中に赤信号を見たらブレーキを踏む」「スマートフォンの通知を見てアプリを開く」といった習慣的で円滑な行動は、特定の感覚刺激とそれに対応する運動を結びつけて覚える「連合学習」によって形成されています。近年、このような連合学習に小脳が関与している事が示唆されていますが、具体的な神経メカニズムは分かっていませんでした。
そこで本研究では、ニホンザルに対して、2 種類の画像に対してそれぞれ左右方向への眼球運動を対応させる連合学習課題を行わせ、その間にサルの小脳外側部(歯状核)における神経活動を記録したところ、画像に対して持続的な活動を示す神経細胞が多く見つかりました。これらの神経細胞は学習中に特に強い反応を示し、さらに左右方向と結びついた画像ごとに反応の強さが異なっており、この持続的な活動によって「学習中」と「特定の運動に結びついた画像」の2つの情報を同時に符号化していると考えられます。さらに、学習中の反応が強いほど、画像ごとの反応の差も大きくなっていました。
これは、小脳の信号が学習状態に応じて視覚刺激の弁別を強化している、すなわち小脳は、学習中に視覚刺激と行動の対応関係をより明確に区別しやすくすることで、連合学習を促進していると考えられます。
本研究成果は、小脳の信号が行動の目的に関連した情報を増幅するという新しい神経メカニズムを提案します。小脳は構造的に均一な神経回路を構成することから、このようなメカニズムによって、さまざまな認知機能が制御されている可能性が考えられます。
■研究代表者
筑波大学医学医療系
國松 淳 助教
■研究の背景
私たちは日常的に、特定の刺激と行動を関連づけて覚える「連合学習」を行うことによって、円滑に行動しています。その神経メカニズムについては、これまで主に、大脳の前頭前野が制御していると考えられてきました。一方、小脳は、運動調節を担う脳領域とされていましたが、近年、前頭前野と相互につながりを持つ小脳の外側部も、連合学習に関与する可能性が示唆されています。そこで本研究では、小脳外側部の出力部である小脳核に注目し、連合学習に果たす役割を調べました。
■研究内容と成果
本研究では、2 頭のサルに「画像」と「眼を動かす方向」を結びつける連合学習課題を行わせました(参考図 A)。課題では、まずサルの目の前のモニターに、2 種類ある画像のどちらか一方が提示され、次に、視線を向けるべきターゲットが左右に提示されます。どちらに視線を向ければ正解となるかは、各画像によって異なります。サルは提示された画像と関連した正しいターゲットを見ることができれば、報酬として水が与えられます。この課題を、①サルが初めて見る画像を用いた学習条件と、②既に十分に学習済みの画像を用いた過学習条件で行わせました。課題遂行中に、歯状核の単一神経の活動を記録したところ、画像が提示された直後に、持続的な活動を示すニューロン(神経細胞)が見つかりました。これらのニューロンは、過学習条件よりも学習条件でより強い反応を示したことから(参考図 B 左)、学習の意欲や意図といった情報を表現していると考えられます。また、この持続的な活動は、各方向と結びついた画像ごとに異なる強さの反応(方向選択性)も示しました(参考図 B 右)。さらに、学習中の反応の増強に応じて、この方向選択性が大きくなっていたことから、小脳の信号が学習状態に応じて視覚刺激の弁別を強化していると考えられます(参考図 C)。先行研究では、学習意欲に関する信号は小脳皮質で、方向選択性に関する信号は前頭前野で観察されています。従って、本研究の結果は、小脳歯状核が学習意欲と方向選択性の2つの信号を統合し、前頭前野へと送り返すことで連合学習を促進するという、新たな神経メカニズムを示唆しています。
■今後の展開
今回、小脳歯状核の持続的な視覚応答が連合学習に関与することを明らかにしました。小脳の関与が示唆される自閉スペクトラム症や小脳障害では、連合学習が困難になることが知られており、本研究の成果はこれらの病態理解の進展につながると期待されます。さらに、連合学習の障害に伴って言語や空間認知などの高次認知機能にも障害が見られることが報告されています。本研究で明らかにした「小脳が認知信号を増幅するメカニズム」は、これらの多様な認知機能の制御にも関与している可能性があり、今後、認知機能を制御する脳内メカニズムの包括的な理解や、認知機能障害の予防や治療法の開発にもつながると期待されます。
■画像解説
図 本研究に用いた方法と結果
A. 連合学習課題の概略図。サルは 2 種類の画像と左右への眼の運動の対応関係を覚えた。B. 画像に対して持続的な神経活動を示した小脳歯状核ニューロンの一例。学習後の画像よりも、学習中の画像に対して強い反応を示し、右方向よりも左方向の運動に結びついた画像に強く反応している。C. 本研究結果の概要。小脳歯状核ニューロンは、学習状態を表現する信号によって方向選択性の情報を増幅し、学習を促進していると考えられる。
■研究資金
本研究は、JST「さきがけ」、科研費学術変革 A「マルチスケール」および基盤研究B、武田科学振興財団による支援を受け、実施されました。
■掲載論文
【題名】Sustained visual signals in the primate cerebellar dentate nucleus drive associative learning
(連合学習を促進する小脳歯状核における持続的な視覚信号)
【著者名】Yusuke Akiyama1, Hiroshi Yamada2,3, Masayuki Matsumoto2,3,4, and Jun Kunimatsu2,3
筑波大学大学院人間総合学術院ニューロサイエンス学位プログラム
筑波大学医学医療系
筑波大学トランスボーダー医学研究センター
京都大学人類進化研究センター
【掲載誌】Communications Biology
【掲載日】2025 年 11 月 18 日
【DOI】10.1038/s42003-025-09068-7











