寄稿者:岐阜薬科大学
《ニュース概要》
点眼剤 (目薬) は、眼疾患治療のための非侵襲的自己投与薬として広く使用されています。しかし、ほとんどの点眼剤は、瞬きや涙液などの眼内代謝により数分以内に急速に排出されます。有効な治療濃度を維持するには頻繁な投与が必要であり、これは患者のコンプライアンスと治療成果に悪影響を及ぼす可能性があります。特に、結膜嚢から角膜や結膜を含む複数の生体障壁を透過しなければならない点で、点眼剤による網膜への薬物送達は大きな課題です。加齢黄斑変性症など網膜疾患に対する医薬品は注射投与が一般的で、患者に痛み (侵襲性) と通院の負担が伴います。点眼剤のもう一つの課題は、多くの薬が水溶性に乏しい点です。点眼剤の溶媒は主に水である為、水に溶けにくい薬は点眼剤としての実用化が困難です。
本研究では、エレクトロスピニング (ES) によりポリマーから作製した生分解性ナノファイバーマットを、眼科用外用製剤として開発することを試みました。ナノファイバーは、表面積、多孔性が高いのが特徴で、眼表面に存在する微量の涙液と接触することで急速にゲル化し、眼内における薬物の滞留時間延長が期待できます。ポリマーの種類を変化させることで薬の放出速度を調節することも可能です。このナノファイバーマットを結膜に直接貼付することで、自己投与可能かつ通院する必要がない、すなわち、自宅で就寝前に貼付する非侵襲的薬物治療が実現できます。他にも、ナノファイバーに担持された薬物は非晶質状態を維持できるため、水に溶けにくい薬の溶解性改善が期待できます。結膜への貼付は異物感が生じる可能性がありますが、就寝前にナノファイバーマットを投与し、睡眠中に溶解・分解させることでこの問題を軽減できます。
本研究ではポリマー基剤としてポリビニルアルコール (PVA) を利用したナノファイバーマット製剤を開発しました。水溶性の低い蛍光化合物であるクマリン6 (C6) をトレーサーとして用い、重合度およびけん化度が異なるPVAナノファイバーによる眼内薬物送達を評価しています。C6はエマルションESによりナノファイバーに組み込まれました。C6はファイバー内で非晶質状態を維持しました。角膜上皮細胞にナノファイバーマットを貼付しても損傷は無く、単回投与されたマウスにおいても眼組織損傷は認められませんでした。C6放出プロファイルはPVAの重合度およびけん化度に応じて変化し、放出制御能力を実証しました。C6含有ナノファイバーマットをマウス眼球へ貼付した結果、対照群と比較して6時間後の網膜濃度が5~18倍高かった。このPVAを基剤とする徐放型眼球結膜貼付剤は、難水溶性化合物の眼内薬物送達を安全に延長し、生物学的利用能を向上させることができます。
本研究は、伊藤貴章助教、宇田翔夢氏(薬学科(当時))、田家裕大氏(薬学科)、神谷ゆい子氏(薬学科)、原幸嗣特任准教授、山添絵理子助教、田原耕平教授の成果であり、「International Journal of Pharmaceutics」に公開されました。
■本研究成果のポイント
・本研究で開発した製剤技術は水に溶けにくい薬物との親和性が高い。薬物を安定に非晶質化することで溶解性を改善し、これまで眼用製剤に応用できなかった難水溶性化合物の臨床応用が期待できる。
・網膜疾患に対する薬物治療は注射剤としての投与がほとんどである。注射投与は患者へ侵襲による苦痛と通院の負担をかけ、医療者には用事調製と注射投与に伴う心身の負担が生じる。本研究で開発した製剤は就寝前に眼球結膜に貼付することで薬物を網膜へ送達することができる。すなわち、在宅治療を可能にすることで患者の心身の苦痛を取り除きQuality of Lifeの向上が期待できる。加えて、医療者においても注射投与の負担を軽減することができる。
■論文情報
雑誌名:International Journal of Pharmaceutics
論文名:Instant-gelling electrospun polyvinyl alcohol nanofiber mats for enhanced retinal drug delivery via topical ocular application
著者:Takaaki Ito, Shomu Uda, Yudai Taie, Yuiko Kamiya, Eriko Yamazoe, Kouji Hara, Kohei Tahara
DOI番号:10.1016/j.ijpharm.2025.126128











