寄稿者:岡山大学
《ニュース概要》
◆発表のポイント
大腸がんの発生に関与する大腸ポリープの検出率を向上させる新技術を開発しました。
酢酸・インジゴカルミン混合液1)を用いた色素内視鏡観察法が、従来の内視鏡観察法と比較して有意に高い検出率を示しました。
今回の発見は、とくに予後不良な右側大腸がん予防に貢献する可能性があります。
岡山大学病院消化器内科の衣笠秀明助教は、住友別子病院(愛媛県新居浜市)・福山市民病院(広島県福山市)・三豊総合病院(香川県観音寺市)・姫路赤十字病院(兵庫県姫路市)・一宮西病院(愛知県一宮市)・岩国医療センター(山口県岩国市)・高梁中央病院(岡山県高梁市)・津山中央病院(岡山県津山市)との多施設共同研究で、酢酸・インジゴカルミン混合液を用いた新たな色素内視鏡観察法を開発しました。これらの研究成果は2025年3月13日、米国の消化器病学雑誌「American Journal of Gastroenterology」のOriginal articleとして掲載されました。
大腸がんの罹患率・死亡率は依然高く、とくに予後不良な右側大腸がんの対策は世界的にも喫緊の課題となってます。インジゴカルミンによるコントラスト法と酢酸による影響を組み合わせることで、平坦で見つけにくいポリープの検出が可能となりました。
本研究成果により、予後不良な右側大腸がん予防に貢献する可能性が高い革新的な診断法の開発であると考えられます。
◆研究者からのひとこと
新たな手法である酢酸・インジゴカルミン混合液による大腸内視鏡観察は特別な技術や機器が必要なものではなく、どの施設でも施行可能なものです。この手法が大腸内視鏡診療のゴールドスタンダード2)になる日は近いかもしれません。(衣笠助教)
■発表内容
・現状
大腸がんは世界的に主要ながんの一つであり、特に右側大腸における大腸ポリープのひとつである鋸きょ歯し状病変(SL)3)はその発生に深く関与しています。しかし、SLは平坦で粘液に覆われているため、従来の白色光内視鏡観察(WLI)4)では検出が困難とされてきました。現在、より高精度な内視鏡技術の開発が求められており、本研究ではこの課題に対する新たな解決策を提案します。
・研究成果の内容
本研究は、岡山大学病院を含む日本国内9つの医療機関(住友別子病院・福山市民病院・三豊総合病院・姫路赤十字病院・一宮西病院・岩国医療センター・高梁中央病院・津山中央病院)で多施設共同ランダム化比較試験として実施し、酢酸・インジゴカルミン混合液(AIM)を用いた色素内視鏡観察が、SL の検出率を向上させることを明らかにしました。
酢酸・インジゴカルミン混合液を用いた群が従来の白色光内視鏡観察(WLI)やインジゴカルミンのみの内視鏡観察(IC)と比較して、鋸歯状病変の追加検出率が有意に向上しました(WLI vs.AIM: 22.4% vs. 69.3%, p<.001; IC vs. AIM: 45.8% vs. 69.3%, p=.001)。
この結果により、酢酸・インジゴカルミン混合液(AIM)を用いることで従来の手法では見逃されていた病変をより効果的に検出できることが示されました。
・社会的な意義
本研究成果は、大腸がんの早期発見・予防に大きく貢献する可能性があります。特に、右側大腸に発生するSLは従来の内視鏡では検出が難しく、見逃されることで大腸がんのリスクが増加していました。しかし、AIMを用いることで検出率を向上させることができれば、より効果的なスクリーニングが可能となり、大腸がんの発生率低下につながると期待されます。また、本技術の普及により、医療コストの削減や患者の負担軽減にも寄与することが考えられます。
■論文情報
論文名:Acetic Acid-Indigo Carmine Chromocolonoscopy for Proximal Serrated Lesions: A Randomized, Three-Arm Colonoscopy Study
掲載紙:American Journal of Gastroenterology
著者:Hideaki Kinugasa,他
DOI:10.14309/ajg.0000000000003411
U R L:
https://journals.lww.com/ajg/abstract/9900/acetic_acid_indigo_carmine_chromocolonoscopy_for.1639.aspx
■研究資金
本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業(#23K07462, #22H02828)および日本内視鏡研究振興財団(JFER)からの支援を受けて実施されました。
■補足・用語説明
1)酢酸・インジコガルミン混合液
内視鏡治療や検査時では、粘膜の凹凸などの病変を分かりやすくするため「インジゴガルミン」という青い液体を散布する。さらに、微小な病変の発見率を高くするため、希釈した酢を粘膜に散布する「酢酸散布法」があり、従来のインジゴガルミン散布に酢酸散布法を追加して病変の色調変化を向上させる効果を狙うため液体。
2)ゴールドスタンダード
標準治療のこと。科学的根拠に基づいた、利用できる現時点で最も効果的な治療。
3)鋸歯状病変(SL)
大腸の内壁に生じる、鋸歯=のこぎり歯状の形をした特徴的な病変。これが大腸がんに変化することがある。
4)白色光内視鏡観察(WLI)
内視鏡の先端から白色光と呼ばれる通常の照明光で消化管の粘膜表面を観察する方法。この観察方法では、肉眼と同様の自然な色で描出される。
詳細はこちら※参照元のサイトを開きます
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id1362.html