寄稿者:北里大学
《ニュース概要》
北里大学獣医学部動物資源科学科の栄養生理学研究室の落合優准教授、本学科卒業生の高橋侑女さん(感染制御科学府修士課程/大村智記念研究所微生物機能学研究室を今年度 9 月に修了)らは、食用昆虫トノサマバッタ粉末にはオメガ 3 脂肪酸が結合した様々なリン脂質種や植物ステロール類など脂質代謝を改善する機能性脂質を多く含むことを明らかにし、脂質異常症モデルラットにおいて肝臓および血中の脂質代謝関連指標が全面的に改善され、かつ脂質代謝の改善に寄与するアッカマンシア属の占有率を雄特異的に上げることを明らかにしました。
本研究成果は国際誌 Food Chemistry: Molecular Sciences 誌(インパクトファクター:4.7)に掲載されました(2025 年9月 25 日付)。本研究は、長崎県立大学看護栄養学部の城内文吾教授との共同研究であり、本学科の鈴木喜博講師、高橋辰行講師、長竿淳准教授、本学科修士課程(獣医学系研究科動物資源科学専攻)を 2023 年度に修了した峰夏南さんとの共同で実施した結果です。
脂質異常症は日本国内で 401 万人(男性 125 万人、女性 276 万人)(2025 年 1 月、厚生労働省)が罹患する代表的な疾患であり、合併症の進展にもつながります。スタチンやエゼチミブなど高コレステロール血症を改善する医薬品化合物は開発され、天然食品素材の中でも数多くの成分に脂質代謝を改善する作用があることが報告されておりますが、代替食料資源として期待される食用昆虫や昆虫由来成分を用いた検討例は数少ないのが現状です。
しかし、トノサマバッタをはじめとする数種類の食用昆虫には、動物資源としては貴重なオメガ 3 脂肪酸を豊富に含むなど、脂質異常症の予防・改善に有効な成分が含まれること(2021 年)をこれまでの著者らの研究で明らかにしており、以前の研究(2022 年)において、雄の健常ラットにおいて脂質代謝を改善する可能性を示唆する成果を公表しました。
しかし一方で、同効果の雌雄差、脂質異常症モデル動物への効果、効果を導き出す作用機序については不明な点が多く残されていました。
そこで本研究では、コレステロール添加食を脂質異常症モデルラット(雄・雌)に給餌し、「食用昆虫≒代替タンパク質資源+脂質代謝改善剤」としての可能性について検討する中で、特に有効成分、作用機序、性差に着目した研究を行いました。
主要な結果として、機能性脂質であるオメガ 3 脂肪酸が結合した様々なリン脂質種や植物ステロール類が高含有されることを機器分析にて詳細に明らかにし、血液-肝臓間の脂質代謝の中心となるリポタンパク質代謝、過剰な脂質の消化管吸収、吸収された脂質の糞便排泄に対して非常に有効に調節する作用があることを見出しました。特に、血中 LDL 分子を肝臓への取り込みを促進し、血中 LDL 脂質濃度を低減化する可能性を示す結果や超悪玉脂質(LDL の中でも小型分子を構成する分子の中性脂肪およびコレステロール)の血中濃度を顕著に低下させる結果は、心血管疾患を予防・改善することに繋がることを示唆する結果であると考えられます。
また、それらの効果は盲腸内のアッカマンシア属に占有率の向上など、腸内細菌叢の改善にも繋がることを見出しました。食用昆虫の給餌による腸内細菌叢の改善作用は学術的にも新規性が高く、消化管と組織・臓器の相関性が期待できる成果と考えられます。
今後も、欧州では新規食資源に認証されるなど代替食料資源として世界的に期待・開発が進む食用昆虫の食料・飼料への有効利用の推進に繋がる基礎研究を継続し、実験動物を利用した栄養化学的基礎研究、食用昆虫から機能性化合物を探索する食品科学的研究、および食用利用を想定した食品加工・製造学的研究に注力していく予定です。
本研究で使用したトノサマバッタ原料は TAKEO 株式会社より提供いただいた試料であり、本研究は科研費(24K08752)、公益財団法人浦上食品・食文化振興財団および公益財団法人ロッテ財団の助成支援を受けて実施いたしました。改めて御礼を申し上げます。
(研究代表者:獣医学部動物資源科学科 栄養生理学研究室 准教授 落合 優)
■筆頭著者(本学科卒業生)からのコメント
高橋 侑女 (動物資源科学科細胞分子機能学研究室 2023 年 3 月卒業)
北里大学大学院感染制御科学府 微生物機能学研究室 修士課程 2025 年 9 月修了
本研究において、私はラット盲腸内の腸内細菌叢解析を行い、食用昆虫トノサマバッタ粉末が雄ラットの腸内細菌叢を改善することを介して脂質異常症を改善する結果を出すことができました。本研究に用いた腸内細菌叢解析の技術は、学部(獣医学部動物資源科学科細胞分子機能学研究室)から修士課程にかけて一貫して取り組んできた「カメ腸内細菌叢とその分離」に関する研究を通じて卒論研究で習得したものであり、修士論文研究や本論文の図の作成においても活用することができました。これまでの研究を通じて、細菌叢がどのような要因によって組成を形成し、それらが環境にどのような影響を及ぼすのかという疑問を抱くようになりました。2026 年 1 月から沖縄科学技術大学院大学 (OIST) に進学し、今後も研究活動を続けていく予定です。
■画像解説
本論文の要約図
・図のポイント
① トノサマバッタ原料にはオメガ 3 脂肪酸が結合した様々なリン脂質種や植物ステロール類が高含有される。
② 主に食餌脂質で構成される血中のカイロミクロン(CM)の血中脂質濃度が低下する。
③ 消化管内に存在する胆汁酸の糞便排泄が促進される。
④ 低比重型リポタンパク質(LDL)に存在する脂質濃度が低下し、その機序として、肝臓のLDL 受容体である LDLR を分解・不活性化する PCSK9(プロテイン転換酵素サブチリシン/ケキシン 9 型)の血中濃度が低下し、LDL の肝臓取込みが増加する。
⑤ LDL 脂質濃度の低減作用や腸内細菌叢の変化は主に雄ラットでのみ確認される。
■論文情報
著者:Ochiai M*, Takahashi Y*, Shirouchi B, Suzuki Y, Mine K, Takahashi T, Nagasao J.
*共同第一著者
タイトル:Male-specific amelioration of lipid metabolism by edible insect Locusta migratoria in rats fed a cholesterol diet: Ingredients, mechanisms, and sex-differences.
雑誌名:Food Chemistry: Molecular Sciences
DOI:10.1016/j.fochms.2025.100303
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666566225000644











