寄稿者:名古屋大学
《ニュース概要》
【本研究のポイント】
・鳥類は母ドリの血液から卵へ IgY(Immunoglobulin Y)抗体注1)を大量に輸送しており、生まれてくるヒナの免疫力を高める「母子免疫」機能をもつ。最近、鳥類固有の FcRY受容体注 2)が卵への IgY 輸送を担うことを明らかにした。しかし、この受容体を発現する細胞がどのように IgY を輸送しているのかは不明であった。
・卵黄を取り囲む毛細血管の内皮細胞において、血液中の IgY が細胞内に取り込まれた後、細胞内で FcRY と IgY が結合することで IgY が輸送されることを示した。
・本研究は、FcRY を利用して卵の IgY を増やす技術の開発につながり、病原抵抗性を持った抗体の安価な生産や新生ヒナの免疫機能の向上に貢献すると期待される。
【研究概要】
名古屋大学大学院生命農学研究科の岡本 真由子 博士後期課程学生、村井 篤嗣教授、古川 恭平 助教らの研究グループは、北海道大学の水島 秀成 准教授との共同研究で、母ドリの血液から卵へ IgY 抗体が大量に輸送されるメカニズムを解明し、鳥類の母子免疫の分子基盤を明らかにしました。
哺乳類を始めとする多くの動物は、母親の免疫成分を次世代へと輸送し、新生子を病原菌などの感染から防ぐ母子免疫機構を備えています。鳥類の母子免疫では、母ドリの血液を流れる IgY 抗体が、卵黄を介してヒナへと輸送されます。最近、母ドリの血液から卵黄への IgY 輸送は、卵黄を取り囲む毛細血管の内皮細胞で発現する FcRY受容体が担うことを見出しました。本研究では、IgY が血管内皮細胞で FcRY とどのように結合して卵黄へと輸送されるのかを明らかにしました。血管内皮細胞を単離して免疫組織染色注3)を行うと、FcRY は細胞の中で小胞様に分布することを明らかにしました。この血管内皮細胞に IgY を添加すると、細胞の中で FcRY と IgY が結合することを実証しました。さらに、この FcRY と IgY の結合にはクラスリン依存的なエンドサイトーシス注4)と輸送小胞の酸性化が必要であることを明らかにしました。本研究は、FcRY を利用して卵の IgY を増やす技術の開発につながり、病原抵抗性を持った抗体の安価な生産や新生ヒナの免疫機能の向上、更にはこの輸送経路を使って、これまでにない成分を含む卵の生産に貢献すると期待されます。
本研究成果は、2025 年 10 月 14 日付 Elsevier 雑誌『Poultry Science』にオンライン掲載されました。
【研究背景と内容】
哺乳類を始めとする多くの動物は、母親の免疫成分を次世代へと輸送し、新生子の免疫防御能を高める母子免疫機構を備えています。鳥類の母子免疫では、母ドリで産生された IgY 抗体がヒナへと輸送されます。この IgY 輸送の第1段階では、卵巣において母ドリの血中から卵黄へ IgY が輸送されます。しかし、この母ドリの体内で IgY が卵黄へと輸送される分子機構は長らく不明でした。
先行研究(Okamoto, Murai et al., Front Immunol., 2024, 29:15:1305587)において、卵黄を取り囲む莢膜(きょうまく)層の毛細血管内皮細胞に発現するFcRY受容体が卵黄へのIgY輸送を担う鍵受容体であることを見つけ出しました(2024 年 3 月 4 日プレスリリース)。しかし、血管内皮細胞でのFcRYとIgYの結合を証明することはできていません。
そこで本研究では、ウズラの卵巣から血管内皮細胞を単離し、細胞内で FcRY と IgYが結合することを証明するとともに、どのような環境条件で結合するのかを調査しました。
ウズラの卵胞注5)から莢膜を採取し、酵素処理と密度勾配遠心法によって血管内皮細胞を分画しました。免疫組織染色を行うと、FcRY は血管内皮細胞の中で小胞様に分布することが明らかになりました(図1)。
さらに、血管内皮細胞に IgY を添加して、近接ライゲーションアッセイ注6)によって FcRY と IgY の結合を可視化すると、細胞の中で FcRY と IgY が相互作用することが明らかになりました(図2)。
また、クラスリン依存的エンドサイトーシスの阻害剤である Pitstop 2 と輸送小胞の酸性化を阻害するBafilomycin A1 を添加すると、FcRY と IgY の結合が著しく減少しました。これらの結果から、FcRY とIgY の結合には、クラスリン依存的エンドサイトーシスと輸送小胞の酸性化が必要であることが明らかになり、FcRY によって IgY が卵黄へと輸送される分子機構が解明されました。
【成果の意義】
卵黄へ IgY 抗体が輸送される現象は、古くから知られていましたが、その分子機構は長らく不明でした。最近、我々は FcRY が卵黄への IgY 輸送を担う鍵受容体であることを明らかにしました。しかし、FcRY がどのように IgY を輸送しているのかという分子機序は未解明でした。
本研究は、FcRY を利用して卵の IgY を増やす技術の開発につながり、病原抵抗性を持った抗体の安価な生産や新生ヒナの免疫機能の向上、更にはこの輸送経路を使って、これまでにない成分を含む卵の生産に貢献することが期待されます。また、卵黄には抗体以外にも多くの物質が蓄積しますが、大半はその輸送システムが未解明です。本研究での卵巣の血管内皮細胞の培養系の確立とそれを用いた解析の推進によって、卵黄への様々な物質の輸送機構を解明できると考えます。
本研究は、科学研究費助成事業(23K27054; 村井篤嗣)、JST 次世代研究者挑戦的プログラム(JPMJSP2125; 岡本真由子)の支援を受けて実施しました。
【用語説明】
注 1)IgY (Immunoglobulin Y) 抗体:
鳥類が独自に持つ免疫グロブリン。非自己物質(抗原)が体内に侵入すると、それに対して特異的に結合する。抗原の毒性の無効化や、貪食細胞による食作用の促進など免疫機構で重要な役割を担う。
注 2)FcRY 受容体:
鳥類のみが持つ IgY の受容体。
注 3)免疫組織染色:
組織切片上に特異抗体を添加して抗原抗体反応を生じさせ、目的のタンパク質を検出する手法。
注 4)クラスリン依存的なエンドサイトーシス:
細胞膜の一部分がクラスリンと呼ばれるタンパク質で覆われ、内部へくぼみながら小胞を形成し、外部の物質を細胞内に取り込む仕組み。
注 5)卵胞:
卵巣の中の構造体。卵母細胞(卵子の元になる細胞で、鳥類では卵黄を大量に取り込んでいる)を保護し、卵母細胞の発育に必要なホルモンや栄養成分の供給を行う。
注 6)近接ライゲーションアッセイ:
タンパク質間相互作用やタンパク質の翻訳後修飾を高感度で検出する手法。オリゴヌクレオチドが結合した特異抗体ペアを試料に添加する。この 2 分子間の距離が近接したとき、これらのオリゴヌクレオチドが複合体を形成し、蛍光シグナルが検出される。
【論文情報】
雑誌名:Poultry Science
論文タイトル:Intracellular Interaction between FcRY Receptor and IgY in Ovarian Vascular Endothelial Cells during Avian Maternal IgY Transfer
著者:Mayuko Okamoto, Kyohei Furukawa, Shusei Mizushima, Atsushi Murai
DOI:10.1016/j.psj.2025.105946











