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2025-10-10

関節リウマチとマイクロRNAの関連性の解明 ~骨破壊や炎症の悪化に関わる因子を明らかにし、 検査・治療にむけた新たな可能性を示唆~

寄稿者:広島大学

《ニュース概要》
■本研究成果のポイント
・関節内の炎症が持続する疾患である「関節リウマチ」の進行に関わるマイクロRNAを網羅的に調査しました。
・数多くのマイクロRNAの中から、「miR-21-5p」というマイクロRNAが病態に関連する因子として抽出されました。
・miR-21-5pが関節内の炎症・組織増殖や関節周囲の骨組織の破壊に関連することが実験的に示されました。
今後、miR-21-5pを標的とした新たな検査法や治療法の開発が期待されます。

■概要
広島大学病院リウマチ・膠原病科の荒木慧医師・平田信太郎教授、同検査部の茂久田翔准教授らの研究グループは、関節リウマチの患者から採取した関節組織を解析し、マイクロRNAの一種であるmiR-21-5pが病気の進行に関わるメカニズムを解明しました。関節リウマチは、全身の多数の関節に炎症や組織の増殖が生じる疾患です。発症早期から骨や軟骨の破壊を伴い、進行すれば関節の機能に影響を及ぼすことがあります。明確な原因は現在も解明されていません。今回の研究では、関節の内側にある「滑膜(注1)」の細胞に注目し、約3,000種類のマイクロRNA(注2)を網羅的に調べた結果、miR-21-5pという分子が、骨破壊や炎症の悪化に関わることが明らかになりました。この分子を標的とすることで、病気の進行度や治療効果を評価する新たな検査法の開発や、将来的な治療法の確立につながる可能性があります。

本研究は、武田科学振興財団(研究代表者:茂久田翔)、持田記念医学薬学振興財団(研究代表者:茂久田翔)、中冨健康科学振興財団(研究代表者:茂久田翔)、土谷記念医学振興基金(研究代表者:茂久田翔)、沖中記念成人病研究所(研究代表者:茂久田翔)、広島ロータリークラブ(研究代表者:茂久田翔)、日本学術振興会科学研究費助成事業(研究代表者:茂久田翔、吉田雄介、増本純也)の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、令和7年6月3日(日本時間)、科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。また、本研究成果は広島大学から論文掲載料の助成を受けています。

■論文情報
掲載雑誌:Scientific Reports(Q1)
論文タイトル:Hsa-miR-21-5p is induced by interleukin-6 and affects multiple pathogenic factors associated with fibroblast-like synoviocytes in rheumatoid arthritis
著者名:Kei Araki, Sho Mokuda *, Hiroki Kohno, Naoya Oka, Hirofumi Watanabe, Michinori Ishitoku, Tomohiro Sugimoto, Yusuke Yoshida, Junya Masumoto and Shintaro Hirata
* Corresponding author(責任著者)
DOI番号:https://doi.org/10.1038/s41598-025-02840-z

■背景
関節リウマチは、手足を含む全身の多くの関節に炎症や疼痛を引き起こし、早期から骨や軟骨の破壊を伴い、関節の変形にもつながる疾患です。体内の蛋白と反応する抗体(自己抗体)が検出される疾患としても知られています。この病気の特徴は、関節の内側にある「滑膜」という組織が異常に増殖することです。関節リウマチが発症し、滑膜に炎症が生じると、滑膜組織内に存在する滑膜線維芽細胞(FLS)(注3)という細胞が増殖し、炎症性サイトカイン(注4)や骨・軟骨の破壊を促進する因子が分泌されると考えられてます。

マイクロRNAという短い長さの核酸は、細胞内で遺伝子の働きを抑制する(転写後調節)ことで知られています。体内の生理的な現象のみならず、多様な疾患において特徴的な分布を取るため、あらゆる分野で研究が進められています。関節リウマチ、特にFLSにおいて、これまでにもマイクロRNAに関するいくつかの報告がありますが、どんな種類のマイクロRNAがどの程度存在しているのか、また、どのような要因でその量が変化するのか、詳しく調べた研究はこれまで行われていませんでした。

■研究成果の内容
今回の研究では、関節リウマチの患者から採取したFLSを使って、どんな種類のマイクロRNAが検出できるのか、網羅的に調査を行いました。約3,000種類のマイクロRNAの中から、FLSに特に多く存在し、かつ炎症性サイトカインの一種であるインターロイキン6(IL-6)によって量が増加するものとして、miR-21-5pという核酸を特定しました。この分子の働きを調べたところ、次の3つの作用が判明しました。

(1)FLSの増殖能力の促進・・・miR-21-5pは、細胞死を促進する因子であるPDCD4を抑制し、FLSの増殖を促進する。
(2)関節周囲の骨破壊の促進する因子への影響・・・関節リウマチにおける骨破壊は、単球やマクロファージなどの前駆細胞から分化した「破骨細胞」という骨を溶かす細胞によって引き起こされる。miR-21-5pは、FLSにおいて破骨細胞の分化を抑制するOPGという蛋白を減少させる。これにより前駆細胞から破骨細胞への分化が促進され、その結果として関節周囲の骨破壊を悪化させる可能性が生じる。
(3)リンパ球やサイトカインへの影響・・・SEMA5Aは、関節リウマチの滑膜組織でリンパ球の増殖や炎症性サイトカインの分泌を促進する蛋白。miR-21-5pは、FLSにおいてSEMA5Aの発現を増強する作用を有する。

これらの結果から、miR-21-5pは関節リウマチの炎症や骨の破壊に深く関わっている可能性があると考えられました。

■今後の展開
今回の研究により、miR-21-5pという核酸が関節リウマチの病態に深く関わり、関節の炎症や骨破壊に関与する蛋白の働きを調整している可能性が示されました。今後、miR-21-5pやその働きに関わる分子を新たな指標(バイオマーカー)として活用できれば、関節リウマチの病態理解や診断の補助に役立つ可能性があります。さらに、このマイクロRNAの機能を制御する方法が確立されれば、新しい治療法につながることも期待されます。

■画像解説
本研究の概要図
IL-6シグナルによってmiR-21-5pの発現が亢進し、PDCD4、OPG、SEMA5Aの発現調節に関与する。



用語解説
(注1)滑膜:
関節リウマチによる関節炎において炎症の首座となる組織。滑膜組織の炎症や増殖の連続的な悪化が、関節リウマチによる関節変形などを引き起こす。

(注2)マイクロRNA:
20〜24塩基の短いRNAで、蛋白を産生する鋳型としては働かない。RNA自身が標的遺伝子の発現を抑制する機能を有する。

(注3)滑膜線維芽細胞(FLS):
滑膜組織を構成する主要な細胞グループの一つであり、関節リウマチの病態に中心的な役割を担っている。

(注4)炎症性サイトカイン:
サイトカインは細胞から分泌される蛋白の一種で細胞同士の情報伝達を担う。炎症性サイトカインもサイトカインの一種で、細菌やウイルスなどの病原体が体内へ侵入した場合、炎症反応を起こして体を守る役割を持つ。一方、炎症性サイトカインの合成が過剰になった場合、発熱、関節痛や各種臓器障害を引き起こす原因となる。