寄稿者:国立遺伝学研究所
《ニュース概要》
Comparative Analysis of Tickling and Conspecific Play in Tame Mice and Golden Hamsters
Dagher S, DeAngelo D, Sato RY, Norimoto H, Koide T*, and Ishiyama S*
(*co-corresponding author)
Behavioural Brain Research (2026) 496 DOI:10.1016/j.bbr.2025.115849
社会的な「遊び」は、動物が絆を深め、重要なスキルを身につけ、ポジティブな感情を表現するために大切な行動です。これまでマウスは「遊ばない」動物と考えられてきましたが、人の手に自ら近づくよう選択育種された「なつきマウス」は、人間や仲間のマウスと遊びの行動を示すことが明らかになりました。
通説を覆す発見をしたのは、独マインツ大学のサラ・ダガー博士(実験当時学生、現在Max Planck Institute for Metabolism Research)と石山晋平博士(現在Central Institute of Mental Health, Mannheim)、国立遺伝学研究所の小出剛准教授らの研究グループです。
なつきマウスは、くすぐられると超音波の「笑い声」のような音を発し、自発的に研究者の手を追いかけます。仲間同士の場面では、互いにちょっかいを出したり、大げさな動きをしたりする「遊び行動」を見せ、やはり超音波発声が確認されました。対照的に、普通のマウスは人のくすぐりに反応せず、仲間との交流も少なく、むしろ攻撃的な行動を見せることが多くありました。
さらに興味深いのは、なつきマウスが人間と遊ぶ時と仲間と遊ぶ時で、発する声の種類が違う点です。つまり、マウスは相手をきちんと区別しているのです。
今回の研究成果は、動物の「家畜化」と人との関わりを考える上でも重要です。マウスの「なつき」を高める育種は、人間との遊びだけでなく、仲間との遊びも増やす効果があることが分かりました。以前の遺伝解析では、マウスのなつきに関連する領域がイヌの家畜化に関わる領域と重なり、種を超えた共通の仕組みの存在を示していました。
今回の研究は、「遊び好き」という性質が特定の動物に限られるものではなく、人との関わりを受け入れやすくなることで、新たに現れる可能性を示しました。また、「ラットは遊ぶがマウスは遊ばない」という従来の見方を覆し、マウスが人間にとっても仲間にとっても「遊び相手」になり得ることを示しています。
図:選択育種を受けたマウスがくすぐりに反応し超音波を発すると共に、その手を自発的に追いかける「遊び様行動」を示す様子
動画はこちら:https://neurogelotology.lol/2025/09/30/selective-breeding-makes-mice-playful-towards-humans-and-other-mice/