寄稿者:大阪大学
《ニュース概要》
■研究成果のポイント
・血中のジアシルグリセロールという脂質が、糖尿病患者の動脈硬化進展に関わることを発見した。
脂質代謝の異常、動脈硬化の双方を引き起こしやすい糖尿病状態において、どの血中脂質が動脈硬化の進展に関わっているのかはよくわかっていなかった。
・今回、糖尿病患者の血液中の脂質を網羅的に測定し、複数のジアシルグリセロールやその総量が、動脈硬化の程度を示す指標と関連することを明らかにした。
・血中のジアシルグリセロール測定が、動脈硬化の進みやすさの判別に役立つことも示唆された。
・糖尿病状態で動脈硬化が進むメカニズムの解明及び治療法の創出に期待。
■概要
大阪大学大学院医学系研究科の田矢直大寄附講座助教(糖尿病病態医療学)、片上直人講師、下村伊一郎教授(内分泌・代謝内科学)らの研究グループは、九州大学生体防御医学研究所の馬場健史教授(高深度オミクスサイエンスセンターメタボロミクス分野)らとともに、血中のジアシルグリセロールが糖尿病患者の動脈硬化進展に関わることを明らかにしました。
これまで様々な血中脂質が動脈硬化の進展に関わることが知られていましたが、脂質代謝の異常、動脈硬化の双方を引き起こしやすい糖尿病状態において、どの血中脂質が動脈硬化の進展に関わっているのかはよくはわかっていませんでした。
今回、研究グループは、大阪大学医学部附属病院に通院中の糖尿病患者の血液に含まれる約350種の脂質の網羅的な測定及び頸動脈エコー検査による動脈壁の変化(動脈硬化の進展)を調査することで、血中のジアシルグリセロールが糖尿病患者の動脈硬化進展に関わることを明らかにしました。この結果は、糖尿病状態で動脈硬化が進みやすい原因の究明や、治療法の創出につながることが期待されます。また、血中のジアシルグリセロールを測定することで、動脈硬化が進みやすい患者の判別がより正確になることが示唆されました。
本研究成果は、英文科学誌「International Journal of Molecular Sciences」に、7月20日に公開されました。
■研究の背景
糖尿病は高血糖を特徴とする病気ですが、脂質の代謝にも異常を来すことが知られています。糖尿病状態では一般的に動脈硬化が進みやすく、患者の健康寿命に影響を与えます。脂質の多くは脂肪酸が基本骨格に結合した構造をしていますが、両者の多様性からヒトの体内には数多くの種類の脂質が存在します。これまで様々な血中脂質が動脈硬化の進展に関わることもわかっていましたが、糖尿病状態においてどの血中脂質が動脈硬化に関わるのかは十分にわかっていませんでした。また、血中脂質には似た構造のものが多いため、多種類の脂質を正確に一括測定するには技術的な課題がありました。
■研究の内容
研究グループは、大阪大学医学部附属病院に通院中の糖尿病患者の血液に含まれる約350種の脂質を、九州大学の研究グループが開発した測定法を用いて網羅的に測定しました。また、頸動脈エコー検査で動脈壁を観察し、動脈硬化の程度を示す頸動脈IMTを評価しました。これらの結果を統計学的に解析し、複数のジアシルグリセロール(様々な脂肪酸を含むジアシルグリセロール)やジアシルグリセロールの総量が頸動脈IMTと関連することを発見しました。さらに、5年間にわたる動脈壁の変化を調査し、血中ジアシルグリセロールが高いほど頸動脈IMTの増加速度が大きいことを明らかにしました。また、血中のジアシルグリセロールの値を用いると、頸動脈IMTの増加速度をより正確に予測できることがわかりました。
■本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
動脈硬化は糖尿病患者の健康寿命に影響を与える、重要な合併症のひとつです。本研究成果により、血中のジアシルグリセロールを測定することは、動脈硬化の進みやすさの評価に役立つことが示唆されました。近年、糖尿病患者の動脈硬化による合併症に対して有効である糖尿病治療薬がわかってきています。そこで、ジアシルグリセロールの測定により動脈硬化の危険性が高い患者がわかれば、そういった薬剤の使用などの対策をとることが可能です。また、現時点ではジアシルグリセロールがどのように動脈硬化を進ませるかは明らかでありませんが、今後この仕組みを解明することで新たな動脈硬化の治療法の発見が期待されます。
■特記事項
本研究成果は、2025年7月20日に英文科学誌「International Journal of Molecular Sciences」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Plasma Diacylglycerols Are Associated with Carotid Intima-Media Thickness Among Patients with Type 2 Diabetes: Findings from a Supercritical Fluid Chromatography/Mass Spectrometry-Based Semi-Targeted Lipidomic Analysis”
著者名:Naohiro Taya1,2, Naoto Katakami1, Kazuo Omori1, Shigero Hosoe1, Hirotaka Watanabe1, Mitsuyoshi Takahara1,3, Kazuyuki Miyashita1, Yutaka Konya4, Sachiko Obara4, Ayako Hidaka4, Motonao Nakao4, Masatomo Takahashi4, Yoshihiro Izumi4, Takeshi Bamba4 and Iichiro Shimomura1
1.大阪大学 大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学
2.大阪大学 大学院医学系研究科 糖尿病病態医療学寄附講座
3.大阪大学 大学院医学系研究科 病院臨床検査学
4.九州大学 生体防御医学研究所 高深度オミクスサイエンスセンター メタボロミクス分野
DOI:https://doi.org/10.3390/ijms26146977
なお、本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)(JP19gm0710005, JP21gm0910013, JP21gm1010010)、公益財団法人 鈴木万平糖尿病財団、公益財団法人 日本糖尿病財団、文部科学省共同利用・共同研究システム形成事業~学際領域展開ハブ形成プログラム~(JPMXP1323015486)、高深度オミクス医学研究拠点整備事業の支援の元、九州大学 生体防御医学研究所 高深度オミクスサイエンスセンター メタボロミクス分野の協力を得て行われました。
■用語解説
・ジアシルグリセロール
グリセロール骨格に脂肪酸が2つ結合した脂質。
・頸動脈IMT
頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(carotid intima-media thickness)。頸動脈エコー検査で測定する、動脈硬化の程度を示す指標であり、その増加速度が大きいことは動脈硬化が速く進むことを意味する。
■この研究についてひとこと
本研究で得られた主な知見は血中のジアシルグリセロールが糖尿病患者さんの動脈硬化進展に関わることですが、重要な点として、この関連が様々な脂肪酸を含むジアシルグリセロールにおいて確認できたことが挙げられます。このことは特定の脂肪酸ではなく、「ジアシルグリセロール」が動脈硬化を引き起こす可能性を示しますが、今回数多くの脂質を測定したことで得られた結果と考えています。
田矢 直大 医学系研究科 寄附講座助教
画像:本研究の概要