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2025-05-21

植物由来の脂肪酸「ガンマリノレン酸」に冠動脈のけいれんを抑える作用を発見 — 狭心症などの予防につながる可能性に期待 —

寄稿者: 東邦大学

《ニュース概要》
東邦大学薬学部薬理学教室の小原圭将准教授、吉岡健人講師、田中芳夫教授らの研究グループは、植物油に含まれる天然脂肪酸「ガンマリノレン酸」(GLA)(注1)に、冠動脈(心臓の血管)(注2)のけいれん(スパスム)を選択的に抑制する作用があることを発見しました。  
この研究成果は、学術雑誌「Journal of Pharmacological Sciences」に2025年5月17日に公開されました。

■発表者名
小原 圭将(東邦大学薬学部薬理学教室 准教授)
吉岡 健人(東邦大学薬学部薬理学教室 講師)
田中 芳夫(東邦大学薬学部薬理学教室 教授)

■発表のポイント
心臓を取り囲む冠動脈の過剰な収縮は、動脈のけいれん(スパスム)を引き起こし、狭心症や心筋梗塞の原因になります。
ガンマリノレン酸は、ブタの冠動脈を用いた実験で、「プロスタノイドTP受容体」(注3)を刺激する物質による収縮を選択的に強く抑制することが確認されました。
この抑制効果は、TP受容体に対する競合的拮抗作用によるものであり、従来n−3系脂肪酸(注4)に特有と考えられていた作用を、n−6系脂肪酸(注5)であるガンマリノレン酸も持つことが示されました。
ガンマリノレン酸は、健康食品などで摂取した時の血中濃度に相当する濃度でも冠動脈の収縮を抑制する効果が見込まれることから、今後、心血管疾患の予防への応用が期待されます。

■発表内容
冠動脈のけいれん(スパスム)は、心臓に酸素や栄養を供給する血管が一時的に狭くなる現象で、狭心症や心筋梗塞の引き金になることがあります。こうした血管の過剰収縮の一因として、トロンボキサンA2(TXA2)などが作用する「プロスタノイドTP受容体」の関与が知られています。

研究グループは、植物油(月見草油、ボラージ油など)に多く含まれるガンマリノレン酸が、TP受容体の働きを阻害するかどうかを検証するため、ヒトに近い薬理学的性質を持つブタの冠動脈を用いて実験を行いました。その結果、ガンマリノレン酸は、TP受容体の刺激によって引き起こされる冠動脈の収縮を選択的に抑えることが分かりました。具体的には、TXA2類似体(U46619)やプロスタグランジンF2αなどのTP受容体を刺激する物質によって誘発される収縮を濃度依存的に強く抑制しました。一方で、カリウム(KCl)やアセチルコリン、ヒスタミン、セロトニンなどによる収縮には、比較的影響が小さいことが示され、ガンマリノレン酸がTP受容体を介した収縮に対して選択的に作用することが明らかとなりました。また、TXA2類似体(U46619)による収縮反応に対するガンマリノレン酸の抑制機序を検討したところ、その抑制はTP受容体に対する競合的拮抗作用により生じることがわかりました。さらに、ヒト細胞を用いた実験により、ガンマリノレン酸がヒトのTP受容体の刺激によって引き起こされる細胞内カルシウム濃度の上昇も抑制することが明らかとなり、ヒトでも同様の作用を持つ可能性が示されました。本研究で使用された濃度範囲(10〜100 µM)は、一般的に食事やサプリメントにより得られるガンマリノレン酸の血中濃度(約100 μM)との間に乖離がないことから、実際の食事やサプリメント摂取でも効果が得られる可能性があります。

本研究は、ガンマリノレン酸がTP受容体を選択的に阻害し、冠動脈スパスムを抑制することを初めて示したものであり、学術的にも臨床的にも重要な知見です。今後はヒトでの検証や長期的な安全性・有効性の評価が求められますが、将来的にはガンマリノレン酸を活用したスパスムや狭心症予防のための機能性食品やサプリメントの開発、あるいは既存治療との併用による新たな心血管疾患対策への応用が期待されます。

■発表雑誌
雑誌名:「Journal of Pharmacological Sciences」(2025年5月17日) 158巻3号、283-287
論文タイトル:Inhibitory effects of γ-linolenic acid on contractile responses in pig coronary arteries: Possible involvement of prostanoid TP receptor inhibition
著者:Keisuke Obara, Kento Yoshioka, Mikoto Ozawa, Haruki Kimura, Mayu Kiguchi, Yuri Nakao, Hinako Miyaji, Toma Yamashita, Noboru Saitoh, Yutaka Nakagome, Sakika Ichihara, Yoshio Tanaka
DOI番号:10.1016/j.jphs.2025.05.009
論文URL:https://doi.org/10.1016/j.jphs.2025.05.009

■用語解説
(注1)ガンマリノレン酸(GLA)
植物油(月見草油、ボラージ油など)に多く含まれるn−6系多価不飽和脂肪酸の一種で、抗炎症作用などが報告されています。
(注2)冠動脈
心臓の表面を走行し、心筋に酸素や栄養を供給する重要な動脈です。収縮や閉塞が生じると狭心症や心筋梗塞の原因になります。
(注3)プロスタノイドTP受容体
血管の収縮を引き起こす受容体のひとつで、トロンボキサンA2(TXA2)やプロスタグランジンF2αなどの生理活性物質によって活性化されます。
(注4)n−3系脂肪酸
n−3系脂肪酸(オメガ3脂肪酸)は、炭素鎖のメチル末端から数えて3番目の炭素に最初の二重結合がある多価不飽和(2つ以上の二重結合を持つ)脂肪酸のことを指します。アルファリノレン酸やエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などが代表例で、青魚やアマニ油などに多く含まれます。血液をさらさらにしたり、炎症を抑えたりする働きがあるとされています。
(注5)n−6系脂肪酸
n−6系脂肪酸(オメガ6脂肪酸)は、炭素鎖のメチル末端から数えて6番目の炭素に最初の二重結合がある多価不飽和脂肪酸のことを指します。リノール酸やガンマリノレン酸、アラキドン酸などが代表例で、大豆油やコーン油、月見草油などに多く含まれます。生体にとって必要な成分ですが、摂りすぎると炎症を促進することもあるため、n−3系脂肪酸とのバランスが重要とされています。

■詳細はこちら※参照元のサイトを開きます
https://www.toho-u.ac.jp/press/2025_index/20250521-1492.html