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2025-04-30

好酸球が原因の猫の腸炎における特徴的なCT所見が明らかに

寄稿者:大阪公立大学

《ニュース概要》
 好酸球性腸炎(EE)は、好酸球という免疫細胞が腸に浸潤して起こる病気で、猫の場合は好酸球浸潤の原因が特定されない場合に診断され、超音波検査で腸管壁の肥厚(特に筋層肥厚)が見られることが特徴です。猫では同じく好酸球を原因とする疾患で、消化管に良性のしこり(腫瘤)ができる消化管好酸球性硬化性線維増殖症(GESF)も報告されていますが、その原因は明らかになっていません。

 CT は病変の部位や形態、局所浸潤の有無を客観的に評価できる検査で、腸疾患の診断にも使用されていますが、猫の EE における特徴的な CT 所見に関する報告は存在していません。また、過去には GESF の猫でも腸管壁の肥厚が起こることが報告されており、EE と GESFに関連がある可能性を考えました。

 大阪公立大学大学院獣医学研究科の田中 利幸准教授らの研究グループは、2014 年から 2023 年の間に慢性消化器症状を示し CT 検査を行った 92 例の猫のうち、EE と診断された 8 例の CT 画像から、特徴的な所見および腫瘤形成の有無を再評価しました。その結果、8例全てで基準値を超える腸管壁の肥厚が見られ、そのうち 7 例は筋層が肥厚化しており、腸管壁を構成する層の境目が明瞭でした。さらに、腫瘤形成が見られたのは 1 例で、リンパ節腫大は 4 例で確認されました。リンパ節腫大が見られる疾患にはリンパ腫もありますが、これらでは腸管壁の層構造の境目がぼやけてはっきりしないため、腸管壁の層構造が明瞭かつ、筋層肥厚を伴う腸管肥厚やリンパ節腫大が EE の特徴的な CT 所見であることが分かりました。このことは、生理検査で細胞が上手く採取できなかった際の疾患鑑別に貢献すると考えられます。また、本研究では EE と GESF の関連は明らかにならなかったため、再評価する症例数を増やし、さらなる検証を進めます。
本研究成果は、2025 年 4 月 26 日に国際学術誌「Veterinary Medicine and Science」のオンライン速報版に掲載されました。

【研究の背景】
 猫における好酸球性腸炎(EE)は、組織学的に好酸球を主とする炎症細胞の浸潤を認め、好酸球浸潤の原因となる他の誘因が認められない場合に診断され、腸管の筋層肥厚が特徴です。消化管好酸球性硬化性線維増殖症(GESF)は、膠原線維、線維芽細胞および好酸球からなる腫瘤で、猫でも発生が報告されています。GESF の原因は不明ですが、GESF 周囲の腸菅壁の肥厚も報告されています。そこで本研究グループは、EE と GESF に関連がある可能性を考えました。
 また、CT は病変の部位や形態、局所浸潤の有無を客観的に評価できる検査として広く使用されており、腸疾患の評価にも使用されるものの、猫の EE における CT 所見に関する報告は存在していません。

【研究の内容】
 本研究では、猫の EE における CT 所見を評価すると同時に、腫瘤形成の有無を評価することを目的としました。2014 年から 2023 年の間に慢性消化器症状を示し CT 検査を行った92 例の猫のうち、EE と診断された 8 例の猫を調査対象とし、CT 所見を評価しました。評価項目は病変部の位置、病変部層構造の有無、病変の形状、腫瘤形成の有無、リンパ節拡大の有無、拡大したリンパ節の位置、拡大したリンパ節の短径/長径比、腸管壁の厚さ、筋層/腸管壁比です。
 その結果、全ての EE で腸管壁のびまん性肥厚が見られ、腸壁全体の厚さは 8 例全てで報告されている正常上限を超えており、平均(平均±標準偏差)は 4.5±2.2 mm でした。7 例(87.5%)では十二指腸、空腸および回腸に、1 例(12.5%)では回腸および結腸に病変を認めました。また、7 例(87.5%)の猫で、早期造影相において層状の腸管壁構造の出現が確認され、遅延相では 5 例(62.5%)で認められました。層構造が確認された7例の猫全てで筋層/腸管壁比の高値を示しました。さらに、腫瘤形成がみられたのは 1 例(12.5%)のみで、リンパ節腫大は 4 例(50%)で確認され、その内訳は、1 例が結腸リンパ節、2 例が空腸リンパ節、1 例が胸骨リンパ節の腫大でした。これらのことから、EE の CT 所見として、層構造が明瞭で筋層肥厚を伴う腸管肥厚およびリンパ節拡大が考えられました。

【期待される効果・今後の展開】
 腸管の肥厚性病変にはさまざまな疾患が関与しているものの、針生検や内視鏡下生検では十分な検体を採取することができず、診断がつかないことがあります。今回の結果は、CT 画像により EE の診断を補助できる可能性を示しました。また、今回は症例数が少なく、EE に腫瘤が形成される例はあったものの、EE と腫瘤形成の関係について明らかにできませんでした。今後は症例数を増やし、EE と GESF の関連について検討を行う予定です。

【掲載誌情報】
【発表雑誌】Veterinary Medicine and Science
【論文名】Computed Tomographic Findings of Eosinophilic Enteritis in Eight Cats: CaseSeries
【著者】Toshiyuki Tanaka, Hana Tsuruta, Koudai Furukawa, Hideo Akiyoshi
【掲載URL】https://doi.org/10.1002/vms3.70353

詳細はこちら(※参照元のサイトを開きます)
https://www.omu.ac.jp/info/research_news/entry-17590.html