敗血症による死亡は、最終的には進行性の臓器障害によってもたらされます。本コンセンサスガイドラインでは、犬猫における「敗血症性ショック」のコンセンサス定義と予後予測に関わる臨床・臨床病理学的所見の系統的レビューを発表し、敗血症における重症化兆候と予後関連指標を包括的に整理しました。なお、犬では予後判定に寄与する各種臨床指標が整理された一方、猫に関してはエビデンスが乏しく、犬と同等の基準適用は推奨されていません。
論文マンスリーピックアップ|犬・猫の敗血症における敗血症性ショックと予後評価:コンセンサス定義および臨床基準
Septic Shock and Prognosis in Dogs and Cats With Sepsis—Consensus Definition and Clinical Criteria
本論文のポイント
国際的専門家パネルによる系統的レビューと合意形成
本ガイドラインは米国や英国をはじめとする6か国・12名の獣医救急集中治療(VECCS)専門家らにより作成され、ヒト医学における敗血症定義の変遷を踏まえつつ、犬猫特有のエビデンスに基づいて独自に構築されています。
系統的レビューでは約16,600件の文献がスクリーニングされ、最終的に352件が採用されました。ただし、エビデンスの多くは犬のデータに偏っており、猫については限定的な推奨にとどまっている点に留意が必要です。
一律の数値カットオフを排した概念的定義の確立
本コンセンサスでは、高乳酸血症、持続性低血圧、進行性臓器障害など単一の所見を必須の診断条件とせず、一律のカットオフ値も示されていません。敗血症性ショックは、「十分な輸液蘇生を行ったにもかかわらず、組織灌流障害を示す心血管系の不安定性および代謝異常を伴う、死亡率の増加を伴う敗血症のサブセット」と定義され、臨床的には以下の所見が代表的です。
- 高乳酸血症
- 持続性低血圧(輸液療法に反応せず、血管収縮薬・強心薬などの追加介入が必要な状態)
- 進行性の臓器機能障害
これらは病態の重症度を示す重要な示唆となりますが、診断に必須の項目ではありません。またヒト医療のように明確な数値カットオフを設定することは、犬猫では施設間・症例間のばらつきが大きく、現時点では困難とされています。そのため、個々の患者の文脈の中で異常値を解釈する姿勢が重要です。
この定義において、心血管不安定性をどのように認識すべきか、あるいはどのような代謝異常が組織灌流障害を示すかは具体的に規定されていません。すなわち、獣医師は可能な限り多くのデータを収集し、個々の患者について判断を行う必要があります。
単一の数値指標のみで「ショック」と診断するのではなく、概念的定義に基づき判断を行うことが求められます。
予後評価に有用である可能性のある検査項目
犬における予後評価として、以下項目の実施が推奨されています。
- 妥当性が検証されたスコアリングツールを用いた臓器障害・疾患重症度の評価
- 客観的な生理学的パラメータの測定(血圧、心拍数、呼吸数など)
- 乳酸値およびイオン化カルシウムの測定
- CBCおよび血清生化学検査の実施
ただし、乳酸値と死亡率の関連を検証した犬の研究10件のうち、有意差を認めたのは3件にとどまります。したがって、単一時点の乳酸値のみで個体の転帰を予測することは推奨されていません。
さらに、可能な施設では以下の追加検査も考慮すべきとされています。
- プロテインCおよびアンチトロンビン活性の経時的測定
- 急性期蛋白(CRP、SAAなど)の定量
- サイトカイン濃度の測定
これらは凝固異常や全身性炎症の進行度を把握するうえで補助的な情報となりますが、多くの施設で日常的に測定可能というわけではなく、エビデンスとしても限定的です。予後指標として単一時点測定を推奨するには至りません。
猫の予後予測
猫に関しては、予後予測に関するエビデンスが極めて制限されています。
体温および血圧の定期的測定は推奨されるものの、臨床現場での重症度スコア適用や乳酸値による予後判定については、現時点で十分な根拠がないと結論付けられました。これは猫における乳酸測定や全血球計算の臨床的価値を否定するものではなく、「単独の予後予測指標としての妥当性」が立証されていないことを示しています。
全身性炎症反応症候群(SIRS)の診断基準
全身性炎症反応症候群(SIRS)とは、感染や外傷、熱傷、膵炎、手術、大量出血などの侵襲によって引き起こされる、全身性の急性炎症反応です。敗血症の犬猫における、SIRS基準の重症度判定への有用性については議論があり、役立つと観察した研究と役立たないと観察した研究はほぼ同数の均衡状態とされました。
ただし多くの研究において、検出力が不足している可能性があること、敗血症の定義にSIRS基準が用いられることで転帰との関連性評価に混乱が生じること、また安楽死の頻度が高いために死亡率を転帰指標とできないことから、エビデンスが不十分であることに注意が必要といえます。
今後の課題
本レビューは、データに基づく定義・基準の妥当性検証に向けた第一歩と位置づけられます。大規模な獣医データベースの整備により、将来的にこれらの関連性がより精緻に検証されることが期待されます。
そのためにも、今後は敗血症の犬猫を対象としたすべての研究において、SIRS(全身性炎症反応症候群)の基準を報告すること、すべての報告において心拍数、呼吸数、体温、白血球数および桿状核好中球数の生データまたは要約統計情報を提供することが推奨されます。
原著論文
Goggs R, Cortellini S, DeClue AE, et al. Septic Shock and Prognosis in Dogs and Cats With Sepsis—Consensus Definition and Clinical Criteria. Journal of Veterinary Emergency and Critical Care. 2026;36(4):470–488. DOI: 10.1111/vec.70130。
初回公開:2026年7月12日。研究種別:系統的文献レビューを踏まえた専門家合意文書。